第9話

次の日から、夜になると中村が工場にやって来た。
ロボットの操縦練習をやるためにだ。
当然、俺も練習に付き合っていた。
中村は真面目に練習を続けていた。
その成果は目に見えて表れていた。
中村の操縦能力が日に日に上達していた。
これならば、かなり良いとこまでいけると思えた。
そして、いよいよ競技会の前日になった。

この日も、中村は練習に来ていた。
「今日は、このくらいでやめないか?」
夢中になって練習している中村に声をかけた。
「そうね・・・」
そう言って、TMMK 1号の電源を切った。
俺は缶ビールを中村に渡して
「お疲れ様」
と言った。
中村は缶ビールを開け、旨そうに飲んだ。
「ありがとな。」
俺がそう言うと
「なにが?」
中村が聞いてきた。
「こう言っちゃ悪いが、お前がこんなに頑張ってくれるとは思わなかったよ。」
「だって、みんなで頑張って造ったロボットだもの、良い結果出したいじゃない。」
「明日は頼むな!」
俺がそう言うと、中村はドキッとするような笑顔をした。
「フフフ・・・」
「なんだよ?気持ち悪いな・・・」
「どうしようかな・・・」
「なんだよ?」
俺は聞いた。
「実はね・・私・・好きな人がいるの・・」
少し照れながら言った。
俺は心臓が止まるかと思うくらい吃驚した。
「・・・・」
何か言おうと思うのだが何も言えなかった。
「そんなに吃驚する事かな?」
中村は少し悲しそうに言った。
「ゴメン・・・突然だったから・・」
俺は、それだけ言うのが精一杯だった。
「そうよね・・オバンが何言っているのって思うよね」
「そう言う訳じゃないけど・・・俺の知っている奴か?」
そう俺が聞くと、急に中村は不機嫌になった。
そしてビールを一気に飲み干してから
「どうかな?」
素っ気なく言った。
「なんだよ・・・ここまで言っておいて隠すなよ。」
俺は、その男が誰なのか知りたかった。
中村は俺の顔をじっと見つめた。
「私が好きな人はね、毎日遅くなるまで仕事頑張っていて責任感があって真面目な人。」
「そうか・・・」
なんか嬉しそうに、その男の事を話す中村を見ていて泣きたくなってきた。
中村は話を続けた
「それなのに子供みたいな可愛いところもあるのよ。」
「分かったよ・・・もういいよ・・・」
俺は、これ以上聞きたくなかった。
なのに・・・中村は続けた
「その人は、みんなでロボット造ろうなんて言い出すのよ」
そう言いながら中村は笑っていた。
え?!・・・俺のこと・・なのか・・・??
なんか頭が混乱していた。
俺は自分に嫉妬していたんだ。
それを中村に見透かされているような気がして悔しくて腹が立ってきた。
そして、その腹いせに ちょっと意地悪したくなった。
「実は・・・俺も好きな女がいるんだ」
俺は真剣な顔をして言った。
中村の表情がこわばった。
「そうなの・・・」
平静を装っているが、明らかに動揺していた。
心の中で、しめしめっと思っていた。
俺は話を続けた。
「今度の競技会で予選突破出来たら告白しようと思っているんだ。」
「・・・・」
中村はうつむき黙っていた。
相当ショックを受けているようだった。
ちょっとやり過ぎたかな・・・
これ以上苛めるは可哀想だ。
そう思い
「そいつはコンビニで働いていてロボットの操縦が上手いんだよ。」
と、言った。
俺の言葉を聞いて中村は顔を上げた。
その顔は、ちょっと怒っているようだった。
そしてフゥーと息を漏らして笑顔になり、いつもの高飛車な口調で
「もしも、予選突破出来なかったらどうするの?その子の事あきらめるの?」
と聞いてきた。
「そうだな・・・男らしくきっぱりあきらめるかな。」
俺はニヤニヤしながら答えた。
「仕方ないわね・・・松本くんの恋を成就させる為にひと肌脱ぐかな」
中村も笑いながらそう言った。
「よろしくお願いします。」
そう言って、俺は深々と頭を下げた。
「任せといて!!」
中村は偉そうに言った。
そして二人してゲラゲラと大笑いした
良い歳をした二人が子供みたいに、じゃれあっていた。