第10話

競技会当日、待ち合わせは会場の入口の前にした。
会場は体育館のような屋内ホールだった。
俺が集合場所に着くと、オグケンが来ていた。
一緒にいるのは奥さんだろう。
俺はオグケンの奥さんに挨拶をした。
オグケンの奥さんは応援していると言い観客席に向かった。
しばらく待っていると守がやって来た。
今日は奥さんと俊太郎も一緒だった。
俺は守の奥さんにも挨拶して、俊太郎の頭を撫でながら声をかけた。
「おはよう!お父さんが造ったロボット見に来たの?」
「うん!ロボットはどこなの?」
俊太郎は早く見たがっていた。
「ここに入っているよ!」
俺はキャリーバックを指さした。
俊太郎はカバンからロボットを出して欲しそうだったが受け付けやら、
機体のレギュレーションチェックやらがあるので
「ゴメンな!後でゆっくり見せてあげるからね」
そう俊太郎にあやまった。
守の奥さんも俊太郎を連れて観客席へ向かった。
それからしばらく待ったが中村は現れなかった
参加者と思われるグループが次々と受け付けに向かっていた。
時計を見ると集合時間も過ぎていたので携帯に連絡入れようかと思ったら、
向こうから必死に走ってくる中村の姿が見えた。
「遅くなってゴメンなさい。」
中村はゼイゼイ言いながらあやまった。
俺はひと文句言ってやろうと思ったら
「大丈夫ですよ!受け付け時間は、まだまだ余裕ありますから」
と、オグケンが優しくフォローした。
まぁいっかと思い
「寝坊したのか?」
と聞いてみた。
中村は息を整えながら
「ゆうべ遅くまで何着て行くか悩んでいたら朝寝過ごしちゃったの」
そう答えた。
マジで着る服を悩んでいたんだ・・・
俺があきれていると
「悩んだ結果がその格好かよ?いつもと変わらなくねぇか?」
と笑いながら守が言った。
ナイスな突っ込みと思った。
「仕方ないでしょ・・時間がなかったし・・」
中村は一番言われたくなかった事だったようで、いつものような高飛車な面影はどこにもなかった。
「全員そろった事だし、受け付けしません?」
オグケンが言った。
確かに・・
俺たちは受け付けに向かった。

受け付けで、エントリーナンバーを言いゼッケンと競技会の案内資料をもらった。
すぐに機体のレギュレーションチェックに行くように促された。
レギュレーションチェックは大きさと重量を計り、モーターが規制のモノか確認された。
計測所の外れでは、大きさや重量がオーバーしたのか
必死に機体を削ったり穴を開けている学生達がいた。
当然、TMMK 1号はレギュレーションチェックはクリアした。
次に機体の写真撮影をおこない受け付け作業は全て終了だった。
そして俺たちは指定された控え室に向かった。

控え室には100人以上の参加者でごった返していた。
俺たちは自分たちの席に腰をおろした。
「受付するだけで、疲れるな。」
守が言った。
「それにしても、沢山居るわね。」
中村が周りを見回して言った。
「全部で200チームがエントリーしたようですよ。」
オグケンが案内資料を見ながら言った。
「そんなにいるんだぁ」
守が吃驚していた。
「200チーム中55チームが社会人で、残りは学生チームみたいですよ。」
オグケンが説明してくれた。
「こんなに沢山居て今日中に競技終わるのかよ?」
俺がぼやくと
「AからEまでの5つのリングを使って同時進行で予選競技がおこなわれるから、
 ちゃんと今日中に終わる予定になっています。」
オグケンが案内資料を見て言った。
「で、俺たちは何処のリングだ?」
俺はオグケンが見ている資料を覗きこんだ。
「Cリングで、17番目ですね。」
オグケンが答えてくれた。
「そっか・・いよいよだな。頼むぜ名パイロット!」
守が中村にそう言うと
「・・・」
中村は返事をしなかった。
「もしかして緊張しているのか?」
守がからかうように言った。
「練習通りやれば大丈夫だよ!」
俺が言うとオグケンも
「そうですよ!」
と励ました。
「ありがとう。みんなでここまで来たんだもの、結果を出さないとね!」
自分に言い聞かせるように中村は言った。
「結果なんか気にするな!楽しもうぜ!」
俺が言うと
「レッツエンジョイって事だな!」
守が付け加えてくれた。
「なんか・・言い回しがオッサンくさい・・・」
中村が憎まれ口をたたいた。
やっと調子が出で来たようだな。
「出走まで、まだ時間がありますから最終チェックをしますね。」
オグケンがTMMK 1号の整備を始めた。
中村は他のロボットを見に行ってくると言って席を立った。
俺と守は缶コーヒー飲みながらバカ話をしていた。

しばらくして、ロボットを造るきっかけをくれた部長が俺たちの席に来てくれた。
「これが松本君たちのロボットかい?。良い機体を造ったじゃないか!」
部長はTMMK 1号を見て言ってくれた。
「部長のおかげで、ここまで造れました。」
俺は感謝を込めて言った。
「いやいや、君たちの想いが形になったんだよ!」
そんな部長の言葉に
「はい!」
と素直に答えた。
部長も笑顔になった。
そして
「それじゃ、お互いに頑張ろう!」
そう言って自分の席に戻っていった。
「凄いパワーのある人だな。」
ずっと黙っていた守が口を開いた。
「あぁ尊敬できる人だよ。」
「なら・・あそこのチームには勝たないとな。それが恩返しになるんじゃないか?」
そんな守の言葉に俺は心から
「勝とうな!」
と呟いた。

そして、いよいよ俺たちの出番が近づいてきた。