第11話

まずはスピード競技だ。
携帯で中村を呼び戻して、俺たちは出走するリングに向かった。
リング脇に着いて、簡易的なチェックをし、指定された場所に機体を置いた。
スタートするまでは機体には一切触れられないルールなのだ。
違法行為を防ぐ為の配慮なのだろう。
俺と中村はリング側で順番を待った。
守とオグケンはスタート側とゴール側からそれぞれビデオ撮影の準備をしていた。
待っている間、他のチームの競技を見ていた。
結構、箱を倒すのに手間取ってタイムロスしているチームが多かった。
やはりパイロットの腕は重要だ。
中村の練習は無駄じゃなかったな。
そうこうしていると後1人で俺達の出走する番になった。
いよいよな状況に俺も緊張してきた。
中村を見ると、彼女の緊張もピークのようだった。
俺は緊張をほぐそうと思い中村に声をかけた。
「中村・・終わったら飲みに行こうぜ!」
中村は予想外の俺の言葉に唖然としたが、フッと息をもらしてから笑顔で
「松本君のおごりね!」
と言った。
「いくらでも、おごってやるから いつものようにやってこい!」
「その約束忘れないでね!」
そう言って中村は機体を持ってリングに向かった。
中村がTMMK 1号をスタートラインに置くとスタッフが
「準備は良いですか?」
と聞いてきた。
中村はコントローラを操作してTMMK1号がちゃんと動く事を確認して
「大丈夫です。」
と返事した。
中村の準備完了を確認したスタッフが号令をかけた。
「それではスタートします。よーいスタート!!」
計測の時計が動き始め競技が始まった。
号令と共にTMMK 1号は素早く動き始め、一直線に箱に向かって行った。
箱に近づくと腕を使って箱を倒した。
そして、そのままバックして来た。
ルールでは必ず頭からゴールしなければならないので、
旋回して方向転換するタイミングが勝敗に大きく影響するのだ。
TMMK 1号は箱とゴールの中間点あたりで急転換した。
ある程度スピードもあったのでドリフトしながら反対方向に向いた。
そしてそのまま一気にゴールした。
表示されたタイムは、7秒57だった。
「よっしゃぁ!」
俺は思わず声を出してしまった。
無事ゴール出来て、中村もホッとした表情をしていた。
守とオグケンも嬉しそうに、こっちに向かって来た。
そしてお互いにハイタッチをした。
俺たちなりに満足のいく結果を出たので、俺たちは良い気分だった。
「この調子で次の競技もいくぞ!それじゃ、戻って調整しようぜ!」
そう守が言い俺たちは控え室に戻り始めた。
その時、違うリングで物凄い歓声が上がった。
何だろうとそのリングを見に行くと、計測の時計が3秒51を示していた。
そのタイムを見て俺たちの浮かれた気分は一気に冷めた。

控え室に戻ってから、俺たちは無口だった。
「上には上がいますね。」
オグケンが話し始めた。
「まぁ・・俺たちだって優秀な方だよな。」
守が言った。
確かに、そうだよな・・・
「初出場でここまでやれば上等だよ!」
俺がそう言うと
「そうですよ!まだ競技は始まったばかりです。」
オグケンも続いて言った。
「次の競技は頑張るわ!」
中村も気合いを入れて言った。
俺たちは、なんとか元気が出てきた。
そんな話をしていた俺たちの席に数人の学生がやって来た。
「すみません・・ロボット見せてもらって良いですか?」
「こんなロボットで良いのか?」
守が聞くと
「さっきの試合凄かったです。ぜひ見せて下さい!」
学生たちはそう言われて悪い気はしなかった。
「好きなだけ見て良いよ!技術的な事は彼に聞きな。」
俺は、そう言って学生の相手はオグケンに任せた。
それからしばらくオグケンと学生は話し込んでいた。
「小栗君、なんか楽しそうね。」
中村はオグケンと学生を見て言った。
「学生とこんな風に話をする機会ってなかなか無いからね。」
俺が答えると
「これもロボット造ったおかげって事かな。」
守がそんな事言った。
確かに・・そうだな。
俺は次の競技も頑張ろうと改めて思った。
「そろそろスピード競技の順位、発表ですよ」
不意に学生が言いだした。
「全チームのスピード競技が終わったの?」
中村が学生に聞いた。
「今、仲間からLINE で連絡来ましたから。
 それじゃ、ありがとうございました。」
学生がそう言って自分の席に戻って行った。