第12話

学生が戻ってすぐに、スタッフが控え室の壁に貼り紙していった。
貼り紙にはスピード競技の順位が書いてあった。
俺たちの順位は61位だった。
ポイントの計算方法は、全部で200台出場しているので1位は200点となり、
2位は199点、3位は198点と言う具合に順位が下がる毎にポイントが1点減るのである。
タイム競技は同タイムと言う事があるので同率順位が起きた場合はポイントの合計の平均となる。
例えば、1位が3人居た場合は、1位から3位までのポイントの合計597点を3で割って199点となる。
俺たちのポイントは138点だった。
同じタイムが5チーム居たためである。
「あのタイムでも61位なのか・・」
守が少し落胆して言った。
「スピードのある機体はパワーが無い筈だから、次のパワー競技で挽回しましょう。」
オグケンが言った。

パワー競技は、最初に運ぶオモリの重量を自己申告する。
そのオモリはスタートしたら増やす事も減らす事も出来ない。
そのオモリを2分以内に2m運び、ゴール出来ればオモリの重い順に順位が決まるのだ。
もしも時間内にゴールが出来ないと、オモリを運んだ距離の長さで順位に決める。
この場合、オモリの重さは関係ない。
当然、順位は完走出来たチームの次からになる。
「オモリの重量を決めるのが重要って事だな。」
守が真剣な顔をして言った。
「そう言う事だ!時間内に運べるギリギリの重量を決めないと高成績は望めないな。」
俺が言った。
「設計者の意見としたら、どの位いけると思う?」
中村がオグケンに聞いた。
オグケンは しばらく考え込み、静かに口を開いた。
「使っているギアモーターのパワーだけ言えば50Kg位は運べると思います。」
「それじゃ50Kg で大丈夫って事だな?」
守が確認した。
「そう簡単な話ではないですよ。本体の剛性が50Kg 運び力に耐えられるか?
 この脚のグリップ力で50Kg 運べるのか?
 問題は山積みですよ。」
オグケンが難しい顔をして言った。
「でも、それらを想定して設計したんでしょ?」
中村がオグケンに言った。
「中村さんに教えてもらった動画で、3〜40Kg運べるロボットが居るのは分かっていましたので
 50Kg 位は運べるようには設計したつもりです。 」
「それなら60Kg でいきましょう!」
中村は無謀なこと言いだした。
「おいおい・・50Kg でもオグケンが心配しているのに、60Kg なんて無茶じゃないか?」
俺が言うと
「大丈夫よ!」
中村は自信たっぷりで言った。
「その自信はどっから来るんだ?」
俺が中村に聞くと
「だって・・・小栗君が考えて設計したモノを松本君が一生懸命部品を加工して、
 鈴木君が苦労して部品調達して完成したロボットだもの、絶対に大丈夫よ!」
俺と守とオグケンはお互いに顔を見合せた。
そんなに大層な事したつもりは無いのだが・・・
そんな事をそれぞれが思ったようだ。
けど、中村にそんな風に言われると悪い気分では無い。
なんか・・出来そうな気分になる。
「やってみるか!」
その守の一声で俺たちの気持ちは決まった。

俺と中村はパワー競技の出走待ちのため、リング脇で待機していた。
あれからみんなで綿密な打ち合わせをして競技に臨んだ。
オグケンの注意点はたった一つだった。
オモリを乗せた台車が動き始めれば後は何とかなる筈だから
スタートの操縦の仕方が重要なカギになると言う事だけだった。
雪道の車のスタートのように、脚がスリップしない様にゆっくりと加速させるようにと中村に注意した。

「オモリは何Kg乗せますか?」
スタッフが俺達に聞いた。
「60Kgでお願いします。」
中村が答えた。
スタッフが台車に60Kgのオモリを乗せて持ってきた。
その台車を後からロボットが押してゴールを目指すのだ。
オグケンもスタート場所にやってきてTMMK1号の腕の位置や機体の位置を微調整して
台車の重心を押せるように配置した。
「準備は良いですか?」
スタッフが聞いてきた。
オグケンも頷いたので、中村が
「大丈夫です。」
と返事した。
中村の返事を確認したスタッフが号令をした。
「よーい スタート!」
号令と共に計測の時計が動き始めた。
「コントローラのスティックをゆっくり倒して・・」
オグケンが中村に指示した。
TMMK 1号がウィーンと言う音を鳴らしていた。
しかし台車は動かなかった。
「少しずつスティックを倒していって下さい。」
オグケンは更に指示した。
中村のスティックの倒す量に比例するかのように、TMMK 1号の発する音が高くなっていた。
俺は"動け!動け!"と念じていた。
そんな俺の念が効いたのかどうかは分からないが、台車はゆっくりと動き始めた。
「台車の動きに合わせて微調整して!」
オグケンの指示は続いていた。
中村もオグケンの指示通り、台車にぴったりくっつくようにTMMK 1号を動かした。
台車はゆっくりと動いていた。
「少しずつスピードを上げて!」
指示通りTMMK1号を動かし、台車を少しずつ加速させていった。
が、ある程度のスピード以上は早くならなかった。
もっとスピードを上げないと時間内にゴール出来ないかも・・・
俺はヤキモキしていた。
かと言って焦りは禁物だ。
ここは中村とオグケンに任せるしかない。
台車はゆっくりではあるが着実にゴールに向かっていた。
あとは時間との勝負だ。
早く!早く!と心の中で叫んでいた。
中村は必死な形相をしていた。
それだけTMMK 1号の操縦は繊細さが必要なのだろう。
あと30cm 、20cm 、10cm 祈る想いで時計を見ながらカウントしていた。
そして、TMMK 1号は時間ギリギリでゴール出来た。
「やったな!」
俺が中村に声かけると
「疲れたぁ・・・」
と言った。
「お疲れ様・・」
そう言うと中村は笑顔で小さくガッツポーズした。
俺も同じようなガッツポーズをした。
そんな俺たちをオグケンはニコニコして見ていた。
俺はオグケンにも
「司令塔役、お疲れ様!」
と言って肩を叩いた。
オグケンは少し照れながらガッツポーズをした。
ゴールの方からビデオを撮っていた守も笑顔でガッツポーズをしていた。