第13話

2つの競技が終わり、お昼なので守の家族とオグケンの奥さんも呼んで
飲食スペースで昼食を食べることにした。
中村が自分のコンビニから、おにぎりやサンドイッチや飲み物を持ってきてくれた。
更に守の奥さんとオグケンの奥さんも手作り弁当を用意してくれたので、食べ物は十分だった。
ちょっとしたピクニック状態だった。
「まだしばらくはパワー競技の結果は出そうに無いから、ゆっくり食事を楽しもうぜ!」
と守が言った。
その守の膝の上には俊太郎が座っていた。
しばらく、みんなで談笑しながら食事をしていた。
そして空腹も満たされ缶コーヒーを飲みながら一息ついていた。

俊太郎が俺の顔を見て何か言いたげだった。
TMMK 1号が気になっているようだ。
なので、俊太郎の前に持ってきてあげた。
俊太郎は食い入るようにTMMK 1号を見ていた。
俺は、そんな俊太郎に
「お父さんの造ったロボット、凄かっただろ?」
と聞いてみた。
「うん!重い荷物押して運んで、凄かった・・」
俊太郎は、ちょっと誇らしげに答えた。
「あのロボットのパイロットは、このおば・・」
と言いかけた俺の言葉を遮って
「お姉さん!」
中村がそう言って俺をにらんだ。
俺は仕方なく
「このお姉さんがパイロットなんだよ。」
と紹介した。
「えぇーお姉さん凄い!」
俊太郎は、中村を尊敬の眼差しで見ていた。
中村は中村で、お姉さんと言われていることに喜んでいるようだった。
「向こうでロボットを動かしてみようか?」
と言う中村に、俊太郎は大喜びでついて行った。
「それじゃ俺はちょっと・・・」
そう言って、守は喫煙所に向かった。
オグケンもトイレに行くと言って席を立った。

俺は守の奥さんとオグケンの奥さんに
「すみませんね、守とオグケンをこんな変なことに巻き込んでしまって・・」
とお詫びした。
守の奥さんは
「良いんですよ。少しは格好良いお父さんが出来たんだから。」
と笑って言った。
オグケンの奥さんは
「私は松本さんに感謝しています。」
と言った。
「え?」
「ロボット造る前のあの人は、いつもつまらなそうにしていたんです。」
オグケンの奥さんは更に話しを続けた。
「それがロボットを造るようになってから、ロボットについて上手くいった事ダメだった事を
 楽しそうに私に話すようになったんですよ。
 あんなにイキイキしている姿を見る久しぶりでした。
 本当にありがとうございました。」
そう言って頭を下げられた。
「いやいや・・自分のわがままに付き合わせただけですから・・」
俺は恐縮してしまった。
「けど・・休みの度に呼び出されるのは困ります。」
と守の奥さんが笑いながら言った。
「それは、うちも困ります。」
オグケンの奥さんも同意した。
「すみません・・」
俺は別の意味で恐縮した。
「まぁ・・ほどほどって事で・・」
守の奥さんが言った。
「そうね・・ほどほどって事でお願いしますね」
オグケンの奥さんも言った。
そんな中、オグケンが戻って来た。
「ほどほど・・だってよ!」
俺はオグケンに話しをふった。
急に話しをふられたオグケンは、何の事だか分からないって顔をしていた。
そんなオグケンの姿を奥さんたちは笑っていた。

まったりとした昼食の時間を終わらせ、俺たちは控え室に戻った。
すでに控え室の壁にはパワー競技の結果が張り出されていた。
TMMK1号の順位は19位だった。
思ったより順位が低くてがっかりした。
「1位のロボットは69Kg も運んだのかよ!」
守が言った。
「上には上が居るな・・」
と俺が言うと
「他人事みたいに言うなよ!」
と守に怒られた。
「上位のロボットって、その競技に特化した機体を造っているんですね。」
オグケンが静かに言った。
何が言いたいのか分からない俺たちに、説明するかのようにオグケンは更に話を続けた。
「スピード競技の1位になるロボットはスピードのみ追求して造っているし、
 パワー競技の1位になるロボットはパワーのみ追求して造っているって事です。」
まだオグケンの言いたい事が分からなかった。
「つまり、それぞれの競技の1位ロボットが予選突破できるとは限らないって事ですよ!」
「予選突破したかったら、それぞれ競技の1位を目指すんじゃなく
 バランス良くポイントを取る事考えろって事ね」
中村が言った。
「そうなると、俺たちの総合ポイントの順位が知りたいな!」
俺が言うと
「分からない事気にしていても仕方なくですよ。」
とオグケンが言った。
「次の競技をどう攻めるか考えた方が良いって事ね。」
中村のその言葉で、次の運の競技の作戦会議が始まった。
「けど・・運に対してどうすれば良いんだよ?」
守が聞いてきた。
「確かに・・・」
俺もどうすれば良いか分からなかった。
「まずは、6箇所のどの箱を倒すかを事前に決めておき、タイムを少しでも早くする事ですね」
そうオグケンが言った。
「それは分かるけど、倒す箱が当たりかどうかでポイントが全然違うとなると悩むよな。」
守が言った。
「そんな風に選ぶのを躊躇してモタモタしたらタイムが遅くなるじゃない。
 小栗君が言う通り事前に決めて最速で終わらせた方が良いと思う。
 後はそれこそ運次第なんだから・・」
中村が言った。
「それじゃ、どの箱を倒すかは一番男らしい中村に決めてもらおうぜ!」
守が言った。
「良いわよ。」
中村は即答して
「その代わり、どんな結果になっても後で文句言わないでよ!」
と付け加えた。
俺はすかさず
「当たり前だろ!」
と言った。
「女のカンって奴でバシッと決めてくれ!」
守も言った。
「予選最後の競技、中村さんに全て委ねます。」
オグケンもそう言った。
みんな中村の選択で良いと思ったようだ。
「わぁー責任重大じゃない。」
中村は少しびびっていた。
「いつもの高飛車な中村でいけば良いんだよ!」
俺は笑顔で言った。
「失礼ねえ・・私はいつだって低姿勢よ!」
中村は口をとがらせて言った。
「あれのどこが低姿勢なんだよ!」
「松本君は、私の表面しか見てないのよ!」
「よく言うよ・・・」
そんな俺たちに対して
「イチャつくなら、他所でやってくれ!」
守がからかうように言った。
「誰がイチャついているって言うの?」
俺と中村が同時に叫んだ。
「分かった!分かった!」
守はどうでもいいって顔をして言った。
俺たちのやり取りを笑いながらオグケンが
「それじゃ予選最後の競技、悔いが残らないように頑張りましょう!」
と言った。