第8話

それからしばらくTMMK1号の改良をし続けた。
オグケンは中村からもらった資料を参考にして、脚先を変更した。
そのおかげか、まるで車輪で動いているかのような滑らかな動きになった。
更に脚のグリップ力を強める為に何が良いかを色々と試してみた。
ただ、このグリップ力はやっかいで強くすれば旋回が悪くなり機動力が落ちる。
しかし弱ければ踏ん張りが利かずパワーが出せなくなる。
そのバランスの調整に苦労していた。
そんなこんなで作業を続けていたが、いよいよ競技会一週間前となった。
今、自分たちが出来る最高のスペックにまで調整できたと思う。
最終的な調整として競技と同じ事をやってみる事にした。
競技会のHPを見て同じ条件になるように、仮のリングを工場に作ってみた。
TMMK1号の操縦は俺と守で交代におこない、
スピード競技のテスト走行をおこなってみた。
動きは悪くないのだが、箱を倒す作業にモタついてタイムは伸びなかった。
「機体の能力的にはもう少し良い筈なんですけどね・・・」
オグケンが納得できないと言う風だった。
「パイロットが悪いって事か?」
守が言った。
あながち守の言うこともハズレではないかも・・・
俺も守も反射神経が悪いらしく、操縦がもたつくことが多かった。
ひどい時は右と左を間違う時があった。
「オグケンも、やってみるか?」
俺が言うと
「たぶん・・・無理です。こういうの苦手なもので・・・」
オグケンは断った。
「あちゃぁ・・・直前で大問題発生だな・・・」
守が言った。
「練習するしかないよ。」
俺がそう言うと
「誰かお忘れじゃありませんか?」
中村が言った。
「お前・・・出来んのかよ?」
守が言うと
「教えてくれれば大丈夫よ!」
自信満々に答えた。
「ホントかぁ・・・・」
守が信用できないと言う風に言った。
「まぁまぁ・・・とりあえずやってもらいましょう。」
オグケンは中村にコントローラーを渡して、操縦方法を教えた。
そしてTMMK1号をリングに置いた。
「それじゃ、まず前進してあの箱を腕で倒してみて下さい。」
オグケンがそう言うと、中村はコントローラーのスティックを倒した。
すると、TMMK1号は猛スピードでバックした。
「逆だよ!!」
俺が叫ぶと、中村は慌ててスティックを元に戻した。
危うくTMMK1号は工場の柱に激突するとこだった。
「なるほど・・・わかったわ。」
中村はそう言ったが
「やめさせた方が良いんじゃねぇか・・・」
守は心配そうに俺に耳打ちした。
俺もその方がよいと思った瞬間、TMMK1号は物凄いスピードで動き、
箱を倒してスタートラインに戻ってきた。
あまりに手際の良さに唖然としてしまった。
オグケンはTMMK1号をきっちりとスタートラインに置いて、箱を立ててから
「タイム計りますから、もう一度お願いします。」
と中村に言った。
オグケンの合図でスタートし、箱を倒して戻ってくるまでのタイムは10秒だった。
このタイムならもう少し練習すれば十分勝負できる。
俺はそう思った。
「すげぇ・・・」
俺も守もそう言うしかなかった。
その後何度もやってみたが、同タイムくらいでクリアーしていた。
少しづつではあるがタイムが良くなっている。
中村の操縦能力は本物だった。
「お前・・密かにロボット操縦の訓練とか受けていたとか?」
守が聞いた
「ないわよ!」
「それじゃ実はニュータイプ?超能力者?それとも宇宙人?」
「バカ!テレビアニメじゃあるまいし・・・」
中村は守の発言に呆れて言った。
「女性の方が、反射神経が高い場合があるって聞いたことあります。」
オグケンが言った。
「まぁ何にせよ、これで中村がパイロットに決まりだな!」
俺の言葉にオグケンも守もうなずいた。
「え?!困ったわねぇ・・・・」
中村がそんな事を言い出した。
「なんか問題でもあるのか?」
俺が聞くと
「当日に着ていく服がないわ。」
予想をしていなかった答えに
「はぁ??」
俺は呆れてしまった。
「いまどきのアニメキャラのコスプレでもするか?痛そうだけど・・・」
守は笑いながら言った。
そんな守を中村が睨みつけた。
「おぉ・・・こわ。」
守がボソっと言った。
「主役はロボットなんだけどなぁ・・・・」
俺はそう言ったが中村は聞いてなかった。
「とにかく後は当日まで出来ることをやりましょう」
オグケンが冷静に言った。
「その為にも、もう少し練習と調整を続けましょう。」
そう言ってオグケンは競技の模擬練習を続けてデータを取っていた。
みんなの協力で、ここまで創りあげたTMMK1号。
優勝とは言わないが、予選突破くらいは目指したいな。
それとは別に俺は予選突破したい理由があった。
あの夜以来、俺は中村との事をはっきりさせたいと思っていた。
つまりは中村と真剣に付き合いたいと思っている。
そう思いながらも、煮え切らない情けない自分が居た。
あれから何度も告白するチャンスがあったのだが、できなかった。
もしも中村に断られて、今の関係も壊れることが怖かった。
情けないが、良い歳して中学生レベルな事をやっていた。
もしかしたら中学生以下かもしれない・・・
そんな情けない俺の背中を押してもらえればと願掛けの意味で
今度の競技会で予選突破できたら中村に告白しようと思っていた。
そんな誓いを勝手にしていた。