第7話

次の日の夜、中村が工場にやってきた。
なにやら神妙な面持ちだった。
「どうした?」
俺が聞くと、中村は会社のパソコンを勝手にいじりだした。
黙ってやらせていると、You tubeにつないだ。
「これを見て。」
そして、中村が前大会の競技の動画を見せた。
その動画を見て俺は愕然とした。
スピード競技の上位の機体は数秒でクリアーしていたし、
パワー競技の上位の機体は数十キロの重りを運んでいた。
運の競技ですら上位機体は10秒たらずでクリアーしていた。
とにかく早くて凄いパワーを持った機体が沢山映っていた。
とても今のTMMK1号の動きでは優勝どころか予選突破すら夢のまた夢だ。
「松本くん・・・」
中村が、黙り込んでいる俺に声をかけた。
「あっ・・ごめん・・・」
俺は思わず謝ってしまった。
「やっぱ、素人が造ったロボットじゃ勝てないのかしらね・・・」
中村の言葉に、俺は反論したかったが何も言えなかった。
中村が言うとおり、専門の勉強をした人や大学の研究室が造った
ロボットじゃなければダメなのだろうか・・・
「でもさ・・・始めはみんな素人よね。」
ふいに中村がそんな事を言った。
確かに・・・
今のTMMK1号は、やっと歩ける程度のレベルだ。
だからこそ、もっと性能があげられる可能性はあるはずだ。
改良を加え競技会までに上位になれるような性能にすれば良いだけだ。
楽観的な考えかも知れないが、もっと凄い機体になれると思う。
そう思ったら、なんだか気が楽になった。
中村の一言で救われた気がした。
「中村・・・ありがとう」
俺がそう言うと
「え?!なに??」
中村は訳が分からないって顔をした
「とにかく、このままじゃ勝てないのは間違いない。
 TMMK1号を強化しないとな。」
ロボットが歩かせただけで喜んでいるようじゃダメだな。
今後は勝つためにどうするかって事を考えて改良しないと。
そう自分に言い聞かせていた。
「それじゃ、この動画の件は小栗君と鈴木君にもメールしとくね。」
「頼むわ。俺からも連絡入れておくよ。」
この動画見て、オグケンが何か良いアイディア出してくれる事を期待しよう。
もちろん俺も考えてみるが・・・
「それじゃ・・・今日はもう仕事終わりでしょ?」
そう言って中村は、持ってきたレジ袋をテーブルの上において広げ始めた。
中身は缶ビールとおつまみだった。
「おいおい・・・ここで飲む気か?」
そう言いながらも悪い気はしなかった。
「1本だけよ。」
「1本だけにしとけよ!
 酔っ払い女を家に送って行くなんて二度とゴメンだからな。」
俺は笑いながら言った。
「あの時はごめんなさい。」
中村が珍しく素直に謝った。
意外な反応に戸惑いながら
「いや・・いいけどさ・・・お袋さんなんか言ってなかった?」
ビールを飲みながら聞くと
「逆にお母さんになんか言った?」
「なんで?俺なんか失礼な事やったかな?」
「なぜか、”松本君を今度家に連れてきなさい”とか言うのよ。」
「あちゃぁ・・・やっぱそう思われたか・・・」
俺がそう言うと
「どういう事?」
中村が聞いてきた。
「お袋さん、俺と中村が付き合っているって勘違いしたみたいだったんだ。」
「え?!」
中村は吃驚したようだ。
「ごめんな、誤解させたみたいで。」
俺は頭を下げた。
中村は黙っていた。
しばらく沈黙が続き、そして
「迷惑かなぁ・・・私とそんな風に思われるのって・・・」
突然、そんな事を言い出した。
俺はドキドキしていた。
すでに中村は俺の中で大きな存在になっていた。
ただ、告白する勇気を持てずにいた。
と言うより断られて今の関係が壊れることが怖かった。
今がチャンスっと言ったら悪いが、最高のシチュエーションだ。
俺は思い切って告白しようと思った。
「中村・・・あのさ・・・」
俺の雰囲気を察してか、中村も緊張した面持ちだった。
「はい・・・」
らしくないくらい、おしとやかな返事をした。
「俺は・・・お前のこと・・・す・・」
そう言いかけたと同時に
「高志!いるかぁ!!」
けたたましく守が会社に入ってきた。
そして、俺たち二人の姿を見て
「なんだ・・・中村も居たのか。
 あぁ!・・もしかして高志が中村に告白してたのか・・・」
とニヤニヤしながら言った。
またも守に殺意を抱いた瞬間だった。
お前は間の悪い男NO.1だよ。
守の言葉に
「っな訳無いでしょ!」
中村はいつもの高飛車な物言いをした。
「で、何の用だよ?」
守に聞くと
「別に用は無いけど、電気付いていたから覗いてみただけだよ。」
ほんとに・・お前は間の悪い男だ。
と、今度は守の携帯が鳴った。
「もしもし・・・はい・・・はい・・・すぐ帰るよ」
どうやら守の奥さんからの電話のようだ。
「嫁がどこほっつき歩いているんだって怒ってるんだよ。
 って事でまたな!」
そう言って守はそそくさと出て行った。
「なんだあいつは・・・・」
俺が思わずつぶやいた。
それじゃ・・気を取り直して・・・と思ったが
「それじゃ私も帰るね。」
と中村が言った。
さっきの続きって訳にもいかないか・・・・
「送っていこうか?」
そういう俺に
「大丈夫!また・・・」
そう言って中村も出て行った。
一人になって、疲れがどっときた。
俺も帰って寝るか。
そう自分に言い聞かせた。