第5話

しばらくして、工場に中村がひょっこり現れた。
「こんにちは。」
俺は、突然の訪問に吃驚した。
「よぉ!どうした?」
つい素っ気無く言ってしまった。
「こんな美女が訪ねてくれたんだから、もっと喜びなさいよ。」
相変わらずの上から発言。
レーザー加工機を操作していた若い従業員の博史が、こっちを見てニヤニヤしていた。
俺は仕事続けろとジェスチャーして
「お前なぁ・・・一応、俺社長なんだから、仕事中に変な事言うなよな。」
「ゴメンゴメン・・・」
と一応謝ったが、どこか本気じゃない。
ったく・・・
「で、何の用だよ?」
俺が聞くと
「用ってほどの事じゃないけど・・・ロボットの方どんな塩梅かと思って・・・」
「まだ、オグケンから連絡ないよ。」
「そうなんだ・・・なんか間が空いて・・・気が抜けそうで・・・」
確かに・・・
「それなら、中村はネットで競技会の他のロボットの情報集めてくれよ。」
俺が言うと
「どうやって?」
中村が聞いた。
「競技会名を検索してみるとか、”自作ロボット”で検索してみるとか・・・
 その辺は自分で考えてみろよ。」
「了解!やってみるわ。」
「そんな事で来たのか?暇だなぁ・・・・」
そう言うと
「何よ!来たら迷惑なわけ!!」
突然、怒り出した。
「いやいや・・・そう言う訳じゃぁ・・・・」
「もういい!!」
そう言って、出ていってしまった。
何だったんだ??
訳が分からなかった。
博史がまたニヤニヤしていたが、俺が睨むと仕事を続けた。
ほんとに、迷惑な奴だな・・・・
そう思いながら、なんか喜んでいる自分がいた。

またしばらくして、ファミレスにみんなで集まった。
オグケンから設計図が出来たと連絡が来たからだ。
テーブルにノートパソコンを置いてオグケンは説明を始めた。
「これが基本構造ね。」
そう言ってキーボードをたたいた。
画面には3Dの絵が表示されていた。
「3D−CADで設計したんだ?」
俺が聞くと
「フリーソフトをダウンロードしたんで。」
オグケンが答えた。
「人型ロボットじゃないんだ?」
画面を見て守が言った。
「仕様の資料を見ると多脚ロボットをイメージしているようなので・・・」
オグケンが説明した。
「あっ!確かに、今までの大会の動画見るとみんな昆虫みたいなロボットだったわ。」
中村が言った。
あいつ、ちゃんと情報集めしていたんだ。
「そうなんだ・・・ロボットって言うとガンダムみたいなものばっかだと思ってたよ。」
守が言うと
「二足ロボットの競技ってのもあるみたいよ。」
中村が言った。
「二足ロボットの話は置いといて、オグケンの説明を聞こうぜ。」
俺がそう言って守と中村の話を止めた。
「続けて・・・」
俺がそう言うと、オグケンは説明を続けた。
「脚機構はヘッケンリンクを使ってみました。これが脚の動きです。」
そう言ってオグケンはマウスを操作した。
すると脚は動き出した。
「おぉぉ・・・凄い凄い!」
守が喜んでいた。
オグケンはキーボードを操作して画面を切り替えた。
「次に腕機構はスライダーリンクにしてみました。」
そう言ってオグケンはマウスを操作した。
腕も脚と同じように動いていた。
「全体の動きは、こんな感じになります。」
更にキーボードを叩いて画面を切り替えて全体図を出して、マウスを操作して動かして見せた。
「設計、完璧じゃねえかよ」
守は感心していた。
「いえいえ、あくまでCAD上の動きなんで実際に作ってみないと分かりませんよ。」
オグケンは心配そうに言った。
「いやいやご謙遜を・・・」
守が言った。
「それじゃ作ってみるか・・・これの構成部品に分解できるか?」
俺はオグケンに聞いてみた。
「そう言うと思って、パーツ図面も作っておきました。」
オグケンはUSBメモリーを俺に差し出した。
「さすが、仕事が速いね。」
俺はUSBメモリーを受け取った。
「それとこれが必要な部品です。」
オグケンはテーブルの上に部品のリストが書かれた紙を出した。
そこにはモーターや歯車などが書かれていた。
その紙を守は取り
「部品調達は俺に任せろ。」
そう言った。
「大丈夫か?」
俺が心配そうに言うと。
「この手の作業は仕事でもやってるから任せろ!」
守がそう答えた。
「え?おまえの仕事って営業だろ?」
「ん?!もしかして営業がただ商品を売ってるだけと思ったら大間違いだぞ。
 お客の無理難題に応えるのも営業の大事な仕事なんだよ。
時々、お客の欲しい品物を取り寄せるような便利屋的な事もやってるから。」
そうなんだ・・・
俺の知らない守の顔を見た気がした。
どんな仕事も大変なんだな。
「ほんじゃ、そっちは頼むよ!俺は図面を元に板金部品を作るから。」
そんな俺たちのやり取りをみて
「なんか結局私の出来ることってお茶くみだけみたいね」
中村が寂しそうに言った。
「だから・・・情報収集頼んだろ!」
俺が言うと
「だって・・・」
「だってもあさっても無い!まだ始まったばっかだろ。これから何が起きるか分からないんだ。
 お前の力が必要な事が起きるかもしれないだろ。焦るなよ!」
そう言うと中村は、うつむいていた顔を上げ笑顔で
「だってもあさってもって・・・親父ギャグ?」
とほざいた。
そっちか!!
ったく・・・
そんな顔をしたが、中村は笑っていた。
「まぁ・・・とにかく次回はうちの会社で起動テストやりたいな。」
俺は中村を無視して言った。
「ほんじゃ・・・次回は高志の会社に集合って事で・・・」
守がそう言った後
「で・・・・」
「ハイハイ・・・この後打ち上げね。」
俺が渋々言った。
なんか飲みのウエイトのほうが高くなっている気がするな。
まぁ機体が出来てくれば変わってくるかな・・・・