第2話

そこに居たのは、それなりに歳はとってはいたが
中学時代の頃とさほど変わらない中村だった。
「イヤイヤ・・・中学時代と変わらずお綺麗で・・・・」
俺はしどろもどろになりながら弁解をした。
「なにそれ?!フォローしているつもりなの?」
と怒っていた。
「いやホントに変わって無いと思うよ。」
俺は真顔で言った。
これは本心だった。
「そう?まぁ・・そうかもね。」
そう言われて中村も満更でもないようだった。
意外と単純だな・・・
とにかく御機嫌が治って良かった。
中村は守の隣の席に座った
「何呑みます?」
オグケンは中村に聞いた。
「あなたは・・・??」
中村はオグケンの事が分からない様だった。
「やっぱ・・・お前存在感無いんだよ。」
ケラケラ笑いながら、守は言った。
オグケンはガックリと肩を落としていた。
まぁまぁ・・・とオグケンをなぐさめつつ、中村にオグケンだと耳打ちした。
「とにかく同級生の再会を祝してもう一度乾杯しようぜ!」
意図したどうかは定かではないが、守が良いタイミングで言った。
中村にビールが来たので、みんなで乾杯をした。

それからは、それぞれの近況を話し始めた。
俺は守と時々連絡取っているので、奴が事務機器の営業をやっていて、
既婚で小一の息子がいる事は知っていた。
オグケンは中堅の機械メーカで設計の仕事をしていて既婚で子供はいないそうだ。
中村はコンビニの店長をやっているそうだ。未婚らしい。
「あれ?中村の家って酒屋じゃ無かったっけ?」
俺は聞いてみた。
「そう・・・よく覚えていたわね・・・15年前にコンビニにしたの。」
「それから、ずっと店長?」
俺は更に聞いた。
「そう・・・松本くんは板金屋さん?」
「そう・・今じゃ社長だよ。」
「ふーん・・・それじゃあたし松本くんのお嫁さんになって社長夫人になろうかしら?」
思わずドキっとしてしまった。
久しく忘れていた感情が湧きあがった。
中村が俺の嫁さん・・・
そんな妄想をし始めた瞬間
「何、真に受けてんのよ!!」
中村に頭を引っ叩かれた。
漫画のように、目から星が出ると言う体験をした。
「何すんだよ!!」
俺は中村を怒鳴りつけた。
「大げさねぇ・・・」
中村は全然気にしてない様子だった。
そんな俺と中村のやり取りを見て
「中学の時と変わらないね・・・」
オグケンが嬉しそうに言った。
そんなオグケンに対して俺が
「中学の頃って40くらいの人ってすげぇ大人に見えたけどな、今自分がその歳になってみると
 中学の頃と変わらない気はするよな。」
と言うと
「見た目は、それなりに歳とってるけどな・・・」
守がケタケタ笑いながら言った。
「私は中学の頃と変わらないのよね・・・松本くん・・・」
中村が笑顔で俺に向かって言った。
「ハイハイ・・おっしゃる通りでございます。」
俺もおどけて答えた。
「中学の頃って楽しかったよね」
不意にオグケンがそんな事言いだした。
「今は楽しく無いのか?」
と俺が聞くと
「楽しく無い訳じゃないけど・・・なんか・・毎日忙しく過ぎていくだけって言うか・・・」
自分でもよく解らないって言う風につぶやいた。
「それは分かる!俺も毎日ただ仕事を追われているだけで、このまま人生終わるのかな?
 って思う時はあるよ。」
俺は正直な気持ちを言った。
「そうなんだよね・・・なんかワクワクドキドキする事も無くてね・・・」
オグケンも同意してくれた。
「浮気でもすれば・・・」
突然、守がめんどくさそうに言った。
「そう言う意味のワクワクじゃなくて・・・・」
オグケンは困ったように言った。
「中学の頃って受験って言う不安な事もあったけど、基本的には
 今日より明日が良い日になるって思って無かった?」
俺がそう聞くと
「そうそう・・・それそれ・・・無条件に明日が信じられたって言うか・・・
 今はこの程度で終わりかなってなんて思っちゃって・・・」
そんなオグケンの言葉をさえぎるように
「なに年寄りくさい事言っているのよ!!私は、まだまだひと花もふた花咲かせるわよ!!」
中村は立ちあがって叫んだ。
「中村・・・」
彼女の気迫に俺はつぶやく事しかできなかった。
「あんた達も頑張りなさいよ!!」
中村は叫んだかと思ったら、電池が切れたように椅子に崩れ落ちた。
「おい大丈夫かよ・・・」
俺が声をかけたが
「ヘヘへ・・・ダイジョウブ・・・・」
と、ただヘラヘラ笑っているだけだった。
どうやら、中村は完全に酔いつぶれてしまったようだ。
(今さっきまで普通に話していたじゃないかよぉ・・・)
と心の中でボヤいた。
気づくと守も椅子にもたれ掛かって居眠りをしていた。
こっちも電池切れかよ!
俺は守を起こし、帰ろうと声をかけた。

俺は中村と、帰る方向が同じだったので抱えて家まで送る事にした。
店を出るときに
「そのまま押し倒せ!!」
と守に叫ばれた。
思わず守に殺意が芽生えた瞬間だった。
オグケンが、こっちは大丈夫だから的なサインを目で送ってきたので
守はオグケンに任せる事にした。
中村の家に向かう道中、中村の身体の感触を楽しむ・・・
なんて事は一切無かった。
とにかく重かった。
(ダイエットしろよ!!)
と背中で寝息を立てている中村に毒を吐いた。
こいつを途中で捨てて帰ろうかと言う悪魔の囁きが何度も聞こえた。
なんとかそんな誘惑に負けず、中村の家のコンビニにたどり着いた。
まだ店はやっており、店内に入ると中村のお母さんがレジに立っていた。
「すみません・・・」
俺がそう言うと、中村の姿を見たお母さんは、慌てて俺に近寄ってきた。
「呑み過ぎたようで、連れてきました」
そう言って中村を背中から降ろしてお母さんと二人で奥の部屋まで連れて行った。
中村を椅子に座らせて、俺はお母さんにお詫びをして帰ろうとすると
「もしかして・・・松本くん?」
とお母さんが聞いてきた。
「はい」
と答えると
「中学の同級生だったわよね。」
お母さんの質問攻撃が始まった。
「はい」
「たしか・・おうちは工場やられていたわよね」
「はい、今は自分が社長です。」
「あら・・凄いわね。お子さんは?」
「いえ・・結婚もまだ・・・」
そう言った瞬間、お母さんの目がキラっと光った気がした。
もしかして、なんかの地雷踏んだのか?
「今日、松本くんと会っていたんだ。真紀子何にも言わずに出かけたから・・・」
なぜか凄く嬉しそうに言っていた。
なんか完全に誤解されている。
そう思ったんで
「いや、あの・・・守・・じゃなくて鈴木と小栗も一緒でした。」
と答えた。
「あらそうなの・・・」
お母さんは、少しがっかりしたようだった。
ここに居続けるのはヤバイ!
「それじゃ失礼します。」
そう言って急いでコンビニを後にした。