第16話

中村と歩きながら、どう切り出そうかと考えていた。
かなり緊張していて、俺の心臓の音が中村に聞こえるんじゃないか
と心配するくらいだった。
そんな俺の気持ちに関係なく不意に中村が
「なんか・・寂しくなるね。」
と、ボソッと呟いた。
「祭りが終わった後って感じだな。」
俺は冷静を装って返事をした。
「永遠に祭りの時間は続いて欲しいけど・・」
「そういう訳にはいかないよ。たまにだから、楽しいんだよ!」
「それは分かるけど、もうしばらく終わりたくないな。」
そう言った中村は、ドキッとするくらい魅力的だった。
そんな中村を見て、なぜか緊張が解けた。
そして、もうしばらく中村と一緒に居たくなったので
「なら、ちょっと遠回りして帰ろうか?」
と言った。
「うん!」
中村は、俺の提案に素直に返事をした。
夜の街を二人でブラブラと歩いていた。
いつのまにか中村と一緒に居る事が当たり前になっていた。
こんな風にずっと、中村と一緒に歩いていきたいって思った。
「中村、俺の嫁さんにならないか?」
自分でも吃驚するくらい自然にそんな言葉が出た。
それに対して、中村も当たり前のように
「良いわよ。」
と答えた。
それから何事も無かったかのように二人は歩き続けていた。
しばらくして、俺は不意に我にかえって
「俺・・・今、なんて言った?」
と言った。
俺と同時に中村も
「私・・・今、なんて返事した?」
と言った。
妙に息が合ったので、お互い顔を見合せて大笑いしてしまった。
俺は笑いながら
「ハハハ・・・俺・・お前に・・プロポーズしちゃったよ・・ハハハ・・・」
と言った。
中村もゲラゲラ笑いながら
「ハハハ・・・私も・・松本君の・・プロポーズ・・O K しちゃった・・ハハハ・・・」
と言った。
ひとしきり笑い、落ち着いてからもう一度俺は
「俺と結婚してくれ!」
と真面目にプロポーズした。
中村は、うつむき黙っていた。
しばらくの沈黙が続いた。
まさか、ダメなのか・・・
ちょっと心配になってきた。
しかし、そんな心配は次の瞬間に吹き飛んだ。
中村は肩を小刻みにふるわせ、やがてまた笑い始めた。
「ハハハ・・・ゴメン・・今日は・・やめて・・笑っちゃってダメ・・・ハハハ・・・」
俺は、そんな中村に呆れて
「この話しは、無かったことで・・・」
そう言って中村に背を向けて歩き始めた。
「ゴメン!ゴメン!」
そう言いながら、中村は俺の後を追ってきた。
俺も怒っているわけではなく、中村とじゃれ合うことを楽しんでいた。
中村もふざけて
「待ってぇ〜捨てないでぇ〜」
と言って追いかけてきた。
俺は笑いをこらえながら
「人聞きの悪いこと言うな!」
と言った。
さらに中村の悪ふざけはエスカレートして
「チューしてあげるから、許してぇ〜」
と、ほざきやがった。
俺は立ち止まり、振り返って
「バーカ!」
と笑顔で言った。
そんな俺に、中村は抱きついてきて
「大好き!」
俺の耳元でそう言った。
「俺もだ!」
そう言って中村を強く抱きしめた。

それからの俺と中村の関係は、特に今までと変わらなかった。
一応、プロポーズをしたので、中村の家に行きご両親へのご挨拶はやってきた。
俺の両親には、今度の連休にでも中村と一緒に行こうと思っていた。
親父達は、数年前に親父が大病した時に会社を俺に引き継いで、お袋と田舎暮らしを始めたのだ。
今では親父の病気もすっかり完治し、田舎暮らしを二人で楽しんでいるようだ。
会わせたい人が居ると電話で知らせた時、お袋は中村に会えるのを楽しみにしているようだった。
それ以外は、相変わらず仕事に追われる毎日だった。
けど、以前と違って日々の忙しさに忙殺されていくような変な不安は無くなっていた。
中学の頃みたいに、今日より明日は良い日になるなんて無条件に信じられるほど能天気ではないが、
少なくとも明日が楽しみと言うか、期待は持てるようになった気はする。
そして明日が楽しみになる為に何をやろうかって考えるようになった。
とは言うものの日々のストレスや不満は消える事は無く、文句や愚痴は毎日言っている。
そんなもんかもね、人生なんて・・・
などと哲学者みたいな事を思ってみたりしていた。

そんなある日、守からみんなで呑まないかと連絡が来た。
一応、俺と中村の婚約(?)のお祝いも兼ねてだとか。