第15話

「それじゃ、お疲れ様でした。乾杯!!」
守のかけ声で、宴が始まった。
俺たち4人は、近所の居酒屋に居た。
競技会の結果は31位だった。
残念ながら予選は突破できなかった。
この結果は悔しかったが、精一杯やった結果なのでやり遂げた
達成感みたいなモノはあった。
予選敗退が決まったが、来年の研究の為にと本戦を観戦した。
そして競技会終了後は案の定、打ち上げしようと言う話しになった。
俊太郎と守の奥さんとオグケンの奥さんが帰ったので、
結局は、いつもの4人でいつもの居酒屋での飲み会になった。

とりあえずビールでお疲れの乾杯をした。
少し酔いも回り、饒舌になった守が
「もう少しで予選突破できたのになぁ・・」
と、悔しそうに言った。
「でも本戦に行けた機体は、凄い機体でしたよ。」
オグケンが言った。
「確かになぁ・・スピードとパワーのバランスが絶妙な機体ばっかだったよな。」
俺もオグケンに同意した。
「TMMK 1号だって良い機体たぜ!」
守がそう言うと
「運がなかったって事かな・・」
中村がすまなそうに言った。
「そんな事ないよ!運の競技で2個正解なら上等だよ!」
まだ中村が運の競技の結果を気にしているようなので、俺はそう強く言った。
そんな俺に守は
「高志は、中村に出会えた事で、運を使い切ったのかもな。」
と、言った。
「どういう事だよ?」
俺がそう聞くと守は
「だって中村と再会出来たことが、お前にとっては最高にラッキーだった事だろ?」
と言いやがった。
「・・・・」
俺が答えに困ってると
「違うのか?」
守は真顔で聞いてきた。
「違わないけど・・・」
と俺は小声でつぶやいた。
そんな俺に守は
「お前なぁ・・
 ”中村に出会えた自分は、最高に運の良い男です”
 とか言えないのか。」
と言いやがった。
「な、な、何言ってんだよ・・」
その言葉で俺は思い切り動揺してしまった。
中村も真っ赤になっていた。
そんな俺たちに追い打ちをかけるように
「お前ら、本当に分かりやす過ぎだよ!」
と、守はからかうように言った。
「いじめるのは、それくらいにしてあげましょうよ!」
オグケンが助け船を出してくれた。
「ヘイヘイ・・」
そう言って守はビールを飲んだ。
「結果は残念でしたけど、ここ数ヶ月本当に楽しかったです。」
オグケンが言った。
「そうだな・・凄い久しぶりに学園祭に参加したみたいだったな・・」
守もしみじみ言った。
「誘ってくれて、ありがとうございました。」
オグケンが改まってお礼を言った。
「俺も楽しかったぜ!ありがとうな。」
守までそんな事を言い出した。
「なんだよ・・急に変な事言うなよ。」
二人にお礼を言われて、照れくさかった。
「最初、松本君が
 ”ロボット造らない?"
 って言った時、何言ってんだって思ったわ。」
中村が話し始めた。
「思った!思った!」
守が合いの手を入れた。
「でね・・・本当にロボットを造って、競技会に出られるなんて、信じられなかったわ。」
中村が思い出すように言った。
「信じられなかったのに、何で参加してくれたんだ?」
俺は中村に聞いた。
「それはラブだ!ラブ!!」
守が茶々を入れた。
そんな守を無視して、中村は話しを続けた。
「なんでかなぁ・・?たぶん、変わりたいって思ったのかもね。」
「変わりたい・・・?」
と、俺は聞いた。
中村は少し考えてから
「何となく過ぎていく日常を変えたかったのかもね・・・」
「何言ってんだよ!最初に会った時、俺とオグケンがそんな話しをしたら
 "なに年寄りくさい事言ってるのよ!”
 ってカツ入れてたじゃないかよ!」
俺がそう言うと
「私、そんな事言ったの?全然覚えていない・・・」
「だろうな。そのすぐ後につぶれたんだから。」
「たぶん・・酔った勢いで心の声を言ったのね。」
「それで、変われたのか?」
そう俺が聞くと
「どうかしらね・・?」
そう言ってドキッとするような笑顔をした。
その笑顔を見て、俺も微笑んだ。
「おい!そこ・・・二人の世界に入ってんじゃねぇよ!」
守が叫んだ。
そんな守の言葉に、俺と中村は大笑いした。
そして俺は、こんな楽しい時間をくれたみんなに
「みんな、ありがとうな!!そして、お疲れ様でした!」
と感謝の言葉を述べた。

楽しい時間は、あっという間に過ぎ、宴も御開きとなった。
いつものように、俺と中村は一緒に帰ることにした。
俺は予選突破出来なかったが、
中村には俺の気持ちはきちんと伝えようと思っていた。

俺の本戦は、これからだった。