第2章 厄日の生活



 「ねぇねぇ マキちゃん・・・」

 「マキって呼ぶなって言ってんだろう!」

霊子達を拾ってから、一週間が過ぎた。

霊子は俺の事をマキと呼んだ。

なぜなら俺の名前が『真紀』と書いて『まさのり』と読むからだ。

結構この名前にはコンプレックスがあった

子供の頃はこの名前のおかげでどんなに からかわれた事か。

まったく親を恨むぜ・・・

 「で なんだよ?」

 「宇宙人さんはまだ寝てるみたいだから、買い物に行かない?」

あれから、宇宙人は眠ったまま目を覚まさなかった。

医者を呼ぶ訳にもいかないので、とりあえず寝かせておいた。

実際はどうか解らないが、外見はどう見ても若い女だからいろいろと戸惑う事があった。

まずいちばん困ったのは着替えだ。

霊子は宇宙人に直接触れないから、着替えをする役目は俺しか居なかった。

霊子にさんざんからかわれ、汗かきかき着替えをさせた。

それに着替えの服なんかの買い物も困った。

女性物なんて解らないし、女性服売り場をウロウロするのは遠慮したかった。

この時は霊子が居てくれて助かった。

先に売り場に行かせておいて買う物を霊子に選んでもらい、

その指示に従って俺は迅速に買い物をした。

後で気づいた事なんだけど、霊子は俺以外の人には見えてないようだ

だから買い物をするときは俺がついて行かなければならない。

 「なんか買う物があるのか?」

 「どうしてもって物は無いけど・・・」

 「またウィンドショッピングか?」

 「へへへ・・・」

霊子はやたらと買い物に行きたがる。

普段は明るく振る舞ってるが、本当の所は幽霊だと言う事で悩んでるようだ。

だからその気晴らしみたいなもので買い物に行きたがる。

それ位のわがままはきいてやってもいいだろう

もっとも それ以上のわがままを言われてるような気もするが・・・

 「宇宙人は大丈夫だな?」

 「うん! まだ眠ってる・・あれ?」

 「どうした?」

宇宙人を見ると体から薄ぼんやりとだが光を発していた。

霊子は俺のそばに来た。

 「目を覚ますのかしら?」

ちょっと恐がってるようだ。

俺も少し緊張していた。

友好的な宇宙人ならいいが、もし地球侵略しに来た奴ならどうしよう・・・

それよりも言葉が通じるのだろうか?

宇宙人は光を発しなくなり、むくっと起き上がった。

とにかくコンタクトしなくては・・・

 「あの・・私の言う事が解りますか?」

宇宙人は俺を見た。

 「私は田中真紀(まさのり)。地球人です。」

宇宙人は黙っていた。

やっぱり言葉が通じないのかぁ・・・

 「ダメみたいね・・」

 「困ったなぁ・・・」

 「大丈夫ですよ。言葉は解りますよ」

宇宙人はちゃんとした日本語で話した。

 「日本語しゃべったわ・・この宇宙人」

 「あなたはどこから来たんですか?」

俺は質問してみた

 「私の名前はあなた達の発音で言えばサーヤです。

  あなた達の言う銀河系の中心にある惑星から来ました。」

 「サーヤさん なぜ地球に来たの?」

霊子が聞いた。

 「おまえが聞いても、サーヤさんには見えてないぞ」

 「見えてますよ 生体エネルギー体ですね」

 「よかった! 私 霊子 よろしくね!!」

それからサーヤがなぜ地球に来たのか等の話しをしてくれた。

サーヤは銀河系の中心にある惑星の王女みたいなモノだそうだ。

その星は一つの国家に統一されて、ほかの惑星とも交流を深めてる。

科学技術も進歩していて、超能力なんかもかなり研究されていた。

サーヤは第1級の超能力者だそうだ。

だから霊子が見えたんだな

あっ!と言う事は俺にも霊視能力があるわけだ・・・

なんでサーヤが地球に来たかと言うとある科学者が

禁止されているバイオテクノロジーを使った生物兵器を作ったそうだ。

その生物兵器α1は強力なPKを使い、人間を捕まえて霊体と肉体に

分離し霊体はエネルギーとして吸収され、

その肉体はα1の兵士としてコントロールされる 。

このα1を危険だと判断したサーヤ達は軍隊を出してこの科学者を逮捕、

α1の破壊に向かったのである。

しかしこの科学者はα1を使って軍隊を全滅させ、宇宙船を奪って逃げた。

サーヤは周りが止めるのも聞かず単独で追跡してきたのだ。

そしてサーヤはこの科学者が地球に居るのを突き止めたのは良かったが、

地球上空で迎撃されて不時着した訳だ。

 「ふ〜ん そうなんだ・・・」

 「で まだα1を追跡するの?」

俺は聞いてみた。

 「もちろん! このままやられっぱなしじゃ腹の虫が治まらないわ!」

 「だけど武器がなければ戦えないんじゃない?」

霊子が聞いた。

 「私が乗ってきた宇宙船を見つければ大丈夫。

  一通りの武器は持ってきたから・・・」

 「だけど宇宙船は壊れたんじゃない?」

俺が聞いた。

 「それも大丈夫です。敵をごまかす為に わざとやられたふりをしただけだから。」

 「でも もう誰かに宇宙船見つかったんじゃない?」

また霊子が聞いた。

 「脱出する時サイコシールドを作動させたから、誰にも見つからないわ!」

 「サイコシールド?」

二人同時に聞いてしまった。

 「簡単に言えば一種の催眠電波を出して そこには何もないと思わせるの?

  だからたとえ大都市のど真ん中にあっても誰も宇宙船には気づかない訳。」

 「しかし 何でそんなに日本語がうまいの?」

俺は一番不思議だった事を聞いた。

 「宇宙船の中でコールドスリープ中に睡眠学習したんです。

  一応地球上の言語はすべて話せます。

  言語だけでなく生活、習慣、文化なんかも学習しました。」

 「へぇー凄いな。下手な日本人よりも日本人らしいんじゃないか・・」

ちらっと霊子を見た。

 「なんで私を見るのよ!私だって料理は得意なのよ。

  出来ないのが残念だわ・・・」

 「まったく・・ああ言えばこう言うし・・・」

 「それじゃ お世話になった御礼で私が料理を作ります」

サーヤは台所へ行き、料理を作り始めた。

この日から奇妙な共同生活が始まった。

霊子は他の人に見えないから良かったが、サーヤはしっかり見えてる。

だから いちおう従姉妹って事でまわりには紹介した。





 「ねぇマキちゃん・・サーヤの怪物退治を手伝うの?」

不意に霊子が聞いてきた。

サーヤを留守番させて久しぶりに霊子と

買い物に出た帰りだった。

 「ああ・・大した事は出来ないだろうけどな」

 「危険じゃないの?

  軍隊だって全滅させたって言うじゃない」

 「たぶん危険だと思うよ。

  だけどそんな怪物が地球にいるなんて

  ほっとけないよ」

 「マキちゃんが張りきったってしょうがないじゃない」

 「そうかもしれないけどサーヤ一人にやらせる訳には

  いかないだろ?もう知っちゃたんだから・・・

  ほっとけないだろ?」

 「まぁね・・・」

さっきから気になってたんだけど、なんか尾けられてるような気がした。

振り返ると誰も居なかった。

 「どうしたの?」

俺が何度も振り返るから、霊子が聞いてきた。

 「なんか尾けられてるような気がしたもんだから・・・」

 「そんな訳じゃないでしょ!私なら解るけど・・こんなに美人だからね・・」

 「自分で言ってて恥ずかしくないか?」

 「全然 本当の事だもの」

 「げっ!そこまで言えたら立派だわ」

尾行者は気になったが霊子とバカをやってたら忘れてしまった。

家に帰るとサーヤが料理を作ってた。

 「ただいま」

 「おかえりなさい」

 「マキちゃんたら尾行されてるなんて言うのよ。おかしいでしょ?」

 「尾行?」

 「気のせいだと思うけど、なんかそんな気がしたんだ」

 「ふーん さて もう出来るから食べましょう」サーヤの料理は旨かった。

いつのまにかサーヤが料理を作る係になっていた。

霊子は当然食べられないけど、必ず食事の時は一緒にいた。

自分が食べられない分よく喋った。

まぁそのおかげで楽しい食事になるんだけど・・・

これが霊子の係なのかな?



次の日サーヤの宇宙船を探しに奥多摩に行った。

サーヤはなんだかよくわかんない機械を動かして俺達を誘導した。

幸い宇宙船は人気の無い山の中に不時着したようだ。

車を降りてから山道を1時間ほど歩いた山の中に宇宙船はあった。

 「これがサーヤが乗ってきた宇宙船?」

霊子が言った。

その宇宙船はそれほど大きくなかった。

ちょうどタンクローリー車位の大きさだった。

形はスターウォーズに出てきたXウィングの様だった。

 「ちょっと待ってて。

  故障箇所なんか調べてみるから。」

サーヤは宇宙船の中に入っていった。

霊子と俺はただただ呆然と宇宙船を眺めてた。

 「なんか現実感無いよね?」

霊子が言った。

 「あぁ・・夢見てるみたいだよ。」

俺も現実感はまったく無かった。

目の前の宇宙船も映画のセットの様な気がした。

ガサッ!

後ろの草むらで なんか動いたようだ。

 「何かしら? ちょっと見てくる」

霊子は音がしたあたりを見に行った。

突然

 「きゃぁぁぁぁ」

霊子の悲鳴

 「どうした!!」

俺は悲鳴のした方に向かった。

霊子が地面に倒れていた。

普通なら抱き起こすのだろうけど、俺は霊子には触れない。

ただ声をかけるだけだ

 「おい! 大丈夫か? おい! しっかりしろ!」

 「うっ」

いきなり後ろから首を絞められた。

俺は手足をバタバタしてもがいたが凄い力で絞められてるのでビクともしない。

もうダメだ・・・

だんだん意識が遠のいていった。

と急に俺は つき飛ばされた。

おかげで何とか死なずに済んだ様だ。

俺はゲホゲホ咳込みながら、体制を立て直した。

見るとサーヤが俺の首を絞めた奴をPKでぶっ飛ばしたようだ。

俺は襲った奴の顔を見ようと注意しながら近づいて行った。

倒れた奴を見ると女だった。

俺は慎重に近づいて女の肩に手を掛けた瞬間、女は俺を突き飛ばして逃げて行った。

俺は金縛りにあったみたいに動けなかった。

なぜなら俺を襲った女は霊子そっくり、いや霊子だった。

 「そんなバカな・・・」

サーヤが心配して

 「マサノリ 大丈夫?」

 「そんな・・・」

俺はうわごとの様に繰り返していた

 「どうしたの?」

サーヤが聞いた

 「俺を襲った奴、霊子だった・・・」

 「え? それじゃ もしかして霊子はα1に捕まったんじゃない?

  それで霊体だけが逃げ出して、そのショックで記憶喪失になったんじゃ・・?」

 「それじゃ俺を襲った霊子は霊子の肉体なのか?」

 「たぶん・・・それより霊子は?」

 「あっ!そうだ」

俺達は急いで霊子の所に戻った。

まだ霊子は倒れていた。

 「どうしよう・・・霊子はこのまんま気がつかなかったら・・・」

俺はオロオロするだけだった。

なにしろ俺達は霊子にさわる事が出来ないのだから・・・

 「私にまかせて。たぶん生体エネルギーを送ってやれば大丈夫よ!」

サーヤは霊子に掌をかざした。

気のせいか、サーヤの掌が光ってる様に見えた。

いや確かに光ってる。

その光が霊子を包んだ。

霊子は顔色(幽霊に顔色って言うのも変だが)が良くなってきた

なんか俺もその光を見てると、力がみなぎってくる様だ。

10分もしたら霊子は気がついた。

 「大丈夫か?」

 「あれ私だったよね?・・・」

霊子はブルブル震えながら言った。

 「そうよ!思いだしたわ・・・私 怪物に襲われて・・・」

今のショックで霊子は記憶が戻ってきたようだ。

 「心配するな!俺がお前の体 取り返してやるから」

サーヤは生体エネルギーを使いすぎて、少し疲れたようだ。

いったん家に帰って作戦を立てなければ。

どうやら俺達はα1を退治しなければならないようだ。

とにかく奴はきっと奥多摩の山中のどっかに居るはずだ。

かならず見つけだして やっつけてやる。

そして霊子を生き返らしてやる。