第1章 厄日の出会い




深夜の山道の運転はさすがに恐い。

昼間なら紅葉が綺麗なんだろうけど、夜中じゃ何も見えない。

今日は山梨の友達の家に遊びに行った帰りだ。

高速を使って帰っても良かったのだけど、高速代をケチって一般道で帰ってきた。

ろくに地図も見ないで感だけで運転してきたのではっきりと解らないけど

ここらは奥多摩の山中だろう。

とても東京都とは思えないなぁ・・・

前にも後ろにも車の姿は無かった

こうなると ちょっと心細くなって

渋滞してた方が良いなぁ・・・

なんて思ってしまう。

まったく 人間なんて勝手な物だ。

眠気をとろうと思い窓を開けた。

と道路の脇を若い女が歩いていた。

何だぁ・・・・?

こんな時間人気の無い田舎道を歩いているなんて尋常じゃない。

俺は女を通り過ぎてすぐに車を止めて、バックして女の所まで戻った。

とりあえず声を掛けてみる事にした。

 「どうしたんですか?」

女はちょっと驚いていた。

 「こんな所を女の子がうろうろしてると危ないですよ。

  何があったか知らないけど車に乗ってください。家まで送りますよ。」

女は不審そうに俺を見た。

まぁ確かに知らない男からこんな夜中に声掛けられて

車に乗れって言われたら疑う方が普通だよな。

俺は信用してもらおうと思い 車から降りた。

 「信用してくれって方が無理かも知れないけど、信用してくれません?

  俺の名前は田中 真紀(まさのり)って言います。あなたの名前は?」

 「わからないんです・・・」

 「わからない? 自分の名前ですよ」

 「全然覚えてないんです、気がついたらここを歩いていたんです」

記憶喪失って言う言葉が頭に浮かんだ。

えらいのに声掛けちゃったなぁ・・・

だからと言って知らん顔も出来ない。

 「とにかく車に乗って下さい。町まで行きましょう。

  警察に行けば何か解るかも知れませんよ」

女はまだ動こうとしなかった。

 「まだ信用してくれませんか?」

 「そんな事は・・・」

 「それじゃ車に乗ってくれますね?」

女はうなずいた。

 「それじゃ行きましょう。こんな所で夜明かししたくないですからね」

女が助手席のドアーに手を掛けた瞬間、俺は背中に冷たい物が走った。

なぜなら女の手は車のドアーを通り抜けていた。

この女 幽霊か・・・?

 「何なのこれ?!」

しかし女の方も驚いていた。

 「幽霊さんですか・・・?」

俺はバカな質問をした。

 「幽霊? 私が・・・?」

女は自分が幽霊だと自覚してないようだ。

突然死んだりした場合自分が幽霊だと自覚しない浮遊霊がいるそうだ。

たぶんその類だろう。

 「私 幽霊なんかじゃないわ!」

女は自分が幽霊だと認めなかった。

 「たぶん あなたは死んでるんですよ。 ほら!」

俺は女の胸のあたりに手を伸ばした。

俺の手は女の体を通り抜けた。

 「そんな・・・」

女はかなりショックだったようだ。

 「何か覚えてないの? 何でもいいから・・・」

 「全然 わからない! それに私・・死んでるなんて・・」

女はその場にしゃがみこんで泣き始めた。

俺はちょっとこの幽霊がかわいそうになった。

 「あのさ・・・よかったら 俺の所に来ないか?

  幽霊だから変な事も出来ないだろうから安心だろう?

  成仏するまで俺が面倒を見てやるよ!」

俺は調子に乗って凄い事を言ってしまった。

とり殺されたりはしないだろうな・・・

悪い奴じゃなさそうだから大丈夫だろう

 「いいの?」

 「まぁ・・仕方無いだろう・・・今日は厄日だと思ってあきらめるわ」

 「厄日とは何よ! こんな美人の幽霊に巡り会えて」

 「げっ よく言うわ。 そうと決まったら早く車に乗ってくれよ!

  そうじゃないと俺も寒くて死んじゃうよ!」

 「それもいいわね・・二人で幽霊漫才でもやる?」

 「冗談じゃない 早く車に乗れ!」

俺は車に乗り込んだ。





「お前さぁ・・・本当に何にも覚えてないの?」

「お前呼ばわり しないでよ! 私あなたの彼女でも無いんだから」

彼女に対して恐怖感がなくなったので、ついなれなれしい口をきいてしまう。

 「わりぃ わりぃ でも何て呼んだら良い?」

 「そうね・・・」

 「幽霊だから霊子ってのはどう?」

 「案直ね」

 「そうか? いい名前だろ?」

 「そうね・・まぁそれで我慢しましょ」

 「それじゃ 決定ね! で、霊子 何か覚えてないのかよ?」

 「呼びすてにしないでよ!」

 「あはは」

それから霊子が覚えてる事を話させた。

しかし霊子の身元が解る事は何もなかった。

記憶喪失だけでも厄介なのに、その子が幽霊だって言うおまけ付きだなんて・・

下手すると霊子の身元なんて解らないかも知れないな・・・

と言う事は一生こいつにとり憑かれてるのか?!

俺はちょっと後悔した。

 「ねぇ・・あれ何かしら?」

不意に霊子が聞いてきた。

 「なんだよ?」

 「あの空に飛んでるの?」

 「飛行機じゃないのか?」

 「違うわ! 飛行機はあんな飛び方しないもの」

霊子があんまりうるさく言うので俺は車を止めて

その飛行物体を見る事にした。

その飛行物体は高度を下げたかと思うと急に上昇し、また高度を下げるという

変な飛び方をしていた。

まぁ普通の航空機はそんな飛び方はしないな

かといってヘリコプターでも無さそうだ。

二人でしばらくその謎の飛行物体を見ていた。

と 急にその飛行物体はこっちに向かってきた。

距離的には近づいてるはずなのに 相変わらず光の塊にしか見えなかった。

その飛行物体は俺達の真上を通過して、途中で光が二つに別れたようだ。

二つとも向こうの山の方に不時着したようだ。

片一方の小さい光の降りた所は割と近そうだな・・・

 「向こうの山に降りたみたいね」

 「そうみたいだな」

あんまり現実離れした光景だったので、気の抜けた返事しかできなかった。

 「ねぇ・・行ってみない」

 「そうだな・・見に行くか」

俺達は車に乗り込んで飛行物体が不時着したと思われる山の方に向かった。





目的の飛行物体はすぐに見つけられた。

なぜならその飛行物体の不時着した辺りは昼間の様に明るかったからだ。

その物体は割と小さかった。

3m位の光の球だった。

中に人影が見えた。

宇宙人か・・・・?

 「やっぱり宇宙人かしらね?」

霊子もおんなじ事を思ったようだ。

突然光が消え光球が有った辺りに人が倒れていた。

俺達はおそるおそる近づいて行った。

倒れていたのは若い女のように見えた。

姿はまったく地球人と変わらなかった。

SF映画に出てくるような銀色の宇宙服のような物を着ていた。

腰の辺りには何だかよく解らない機械がくっついていた。

 「何しに来たのかしらね?」

また霊子が聞いてきた。

いちいち俺に聞くな。

俺だって解らないんだから・・・

俺は宇宙人に近づいてみた。

 「大丈夫? 襲ってこない?」

霊子が心配そうに言った。

呼吸はしているようだ。

怪我はしてないようだな。

どうやらこの宇宙人、気を失ってるだけのようだ。

このままにしてはおけないな・・

俺は宇宙人を抱き抱えて車に乗せる事にした。

 「ねぇ連れてくの? この宇宙人・・」

 「仕方ねぇだろう このまま置き去りには出来ないよ!」

 「だけど・・・危険じゃないの?」

 「わかんねぇよ そんな事・・・」

 「だったら・・・」

 「うるさい!幽霊の面倒を見るって言ったんだ、

  宇宙人の面倒を見たっていいだろう!?」

霊子はそれ以上何も言わなかった。

ちょっと言い過ぎたかな?・・・

と、気を使った俺がバカだった。

霊子は車に戻ってから

 「ねぇ・・もしこの宇宙人が記憶喪失だったら、宙子って名前にするの?

  それとも宇子かな?」

なんて事を言いやがった。

まったく・・・

それにしても今日は、なんて日だ。

今だかつて幽霊と宇宙人を拾ったなんて俺くらいだろうな・・・

本当に今日は厄日だったのかな・・・・?