第2話


僕は、早起きして登校前にファーストフード店でコーヒーを飲むのが日課だ。
その店のコーヒーが美味しいからでは無い。
毎朝、そこで勉強している女子高生が目当てである。
彼女の存在に気が付いてから、すでに一か月以上経っている。
へたれな僕は声をかける事が出来ず、いまだに名前さえも知らなかった。
ただ毎朝彼女の姿を見るだけで一喜一憂していた。
今日こそは声をかけて彼女との距離を縮めようと決意して来るのだが
彼女を前にすると何も言えなくなってしまうのだった。

今日も何も言えず、ただ彼女の姿をチラチラ見ていた。
(これじゃ・・・ストーカーだよ・・・)
自分の情けなさに苦笑していた。
そして自分の気持ちを誤魔化すようにスマホをいじっていた。
ふと見たツイッターには

 ”今日3月10日って佐藤の日なんだって?”

そんなツイートが流れてきた。
(佐藤の日なんてあるんだ・・・)
僕も名前が佐藤なので、ちょっと気になり佐藤の日で検索をかけてみた。

 ”佐藤の日には何人かの佐藤さんに小さな奇跡が起きるって噂があるんだよ。”

そんなツイートを見つけた。
小さな奇跡かぁ・・・僕にも起きたら良いなぁ・・・
奇跡が起きて彼女と仲良くデートに行く妄想をしていた。
ふと時計を見ると
ヤベッ!完全に遅刻の時間だ。
僕は慌てて座席を立ち上がった。
その瞬間、カバンの端がテーブルの角の引っかかりカバンの中身を床にぶちまけてしまった。
(ったく・・・最悪だよ!!)
僕は心の中で悪態をつきながら急いで床に落ちた物を拾った。
と、目の前にマンガの本が現れた。
「はい!」
見上げると彼女が僕がぶちまけたマンガの本を拾ってくれたようだ。
「あ・・ありがとう・・・」
僕はその言葉を出すのが精一杯だった。
「このマンガ、面白いよね!これって最新刊?」
「そう・・・」
「そっか・・・私も早く買おう!この作品大好きなんだ!」
僕は受け取ったマンガを彼女に差し出して
「良かったら、これ貸そうか?」
自分でも吃驚するくらい大胆な提案をした。
「え?!・・・でも・・・」
彼女は少し躊躇していた。
「僕は毎朝ここでコーヒー飲んでるから読み終わったら返してくれれば良いから。」
「そう・・・ありがとう!それじゃ遠慮無く借りるね。」
そう言ってマンガを受け取った。
「それじゃ!」
そう言って僕は慌てて店を飛び出た。
たぶん・・・完全に遅刻だろう・・・
でも、気持ちは浮かれていた。
明日は彼女とどんな話しをしようかな?
そんな妄想をしながらニヤニヤして学校に向かった。


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