第1話


「今日、3月10日は佐藤の日らしいです。
 語呂合わせなんでしょうね。
 日本で一番多い苗字は佐藤さんだそうです。
 沢山の佐藤さんにとって、今日が良い日であると良いですね。」

ラジオの女性パーソナリティーが話していた。
俺は、外回りの車の中で聞いていた。
すると、俺の携帯が鳴った。
会社からか・・・?
車を止めて、携帯を見ると知らない番号だった。
誰だろう??
そう思いながら電話に出た。
「はい、佐藤です。」
「もしもし・・・佐藤君?」
相手は女性の声だった。
「そうですが・・・」
「私・・・アキです。」
アキは、高校の時の同級生だ。
「アキさん??」
「そう・・久しぶり・・・20年くらいぶりかしら?」
「高校以来だから20年ぶりだね。どうしたの?」
「今、ラジオ聞いてたら今日は佐藤の日って言ってたから
 ふと佐藤君の事思い出して懐かしくて・・つい電話しちゃった。
 迷惑だった?」
「迷惑だなんてトンデモナイ!嬉しいよ!!」
「良かった・・・」
アキとは恋人同士って訳じゃなかった。
お互い好きだったとは思う。
なんか友達以上恋人未満の関係より進めず卒業して、それっきりだった。
「元気でやってる?」
俺が聞くと
「元気って言えば元気かな・・・」
と思わせぶりな事を言った。
「なんかあるのかよ?」
「まぁ・・それなりに色々あるわよ。」
そう言ってアキは笑った。
「そう言う佐藤君はどうなのよ?」
「俺も色々あるよ・・・」
と言って笑った。
それからしばらく高校時代の思い出話をしていた。
ふと気づくと結構時間が経っていた。
もっとアキと話していたいが、そう言う訳にもいかない。
「アキさん・・・ゴメン・・・俺そろそろ仕事に戻らないと・・・」
そう言うと
「ごめんなさいね・・佐藤君も身体に気を付けて頑張ってね!」
「アキさんもね!」
「あ!そうだ・・佐藤君、高校の時バレンタインにチョコもらってくれて、ありがとうね!」
そう言えば高3のバレンタインにアキからチョコもらったなぁ・・・
「あの時はゴメンな。俺・・凄い嬉しかったのに、素っ気ない態度とって・・・」
「私も、あの後よそよそしい態度とってゴメンなさい。」
「謝る事ないよ!俺の態度に頭来たんだろ?」
「そうじゃないの。自分の気持ちをあなたに言った事が恥ずかしくなったの。」
「そうだったんだ。俺はてっきり怒ってるんだと思ってホワイトデーに告白・・・」
あれ?確かプレゼントも買ったし、告白の練習もやってた。
なのに何故告白していないんだ?!
そう思った瞬間、俺は思い出した。
俺は告白できなかった。
なぜならアキはホワイトデーの前に事故で亡くなっていた。
そう、3月10日に・・・・
って事は今まで話していたアキは幽霊?
「そうじゃないわ。
 今日は佐藤の日だから、何人かの佐藤さんに小さな奇跡が起きるの。」
「だから、アキとこうして話しが出来たのか。」
「私は、佐藤君に言いたかったの。
 佐藤君に出会えて幸せだったって・・・
 そして本当にありがとうね。」
「俺の方こそ、ありがとう!」
「そろそろ奇跡も終わりだわ。」
「また、話せないのか?」
「奇跡は一度だけよ。それに過去に縛られたら前に進めないわ。
 佐藤君、良い人生を送ってね!さようなら。」
そう言うと電話は切れた。
「もしもし!アキ!!」
いくらか叫んでも返事はなかった。
すると急に気が遠くなってきた。

気づくと俺は帰りの電車の中で座席に座っていた。
全て夢だったのか・・・・
たとえ夢でもアキと話せて嬉しかった。
懐かしさと刹那さと嬉しさの入り交じった不思議な気分になっていた。
そして、今度のホワイトデーにはプレゼントを持ってアキの墓参りに行こうと思った。


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