SEX



祥子が部屋に戻ると電話がメッセージが有る事を示していた。
最近、捜査が忙しく家に帰るのが深夜になるのはざらであった。
この日も部屋に着いたのは深夜になっていた。
留守電の再生ボタンを押してみた。
「あっ!祥子?・・・わたし・・・」
メッセージの相手は高校時代からの親友の沙織だった。
「今度結婚する事にしたの・・・で、ちょっと相談したい事が有ったんだけど・・・」
沙織が結婚??ちょっと意外な感じがした。
沙織は美人で高校時代には彼女に恋してた男達は星の数ほど居た。
それはたぶん社会人になっても同じだったろう・・・・
しかし・・・不思議なくらい沙織には浮いた話しが無かった。
何度か男達からアプローチは有ったみたいだが、さらりとかわしていた様である。
「沙織は色恋よりも仕事を選ぶタイプ」それが彼女の周りからの評価である。
確かに沙織は自分の仕事に誇りを持っていたし、能力もあり評価もされていた。
そして数年前には独立して自分の会社を設立していた。
それなのに結婚するなんて・・・・
そこでハッとした。
祥子は沙織の結婚を素直に喜んでない自分に苦笑してしまった。
別に結婚したって仕事は続けてる人は、たくさん居るのに
彼女の結婚にどっかで嫉妬してるのかな・・・・
そんな事をボンヤリ考えていた。


沙織の電話から二週間が過ぎた頃、すぐ来て欲しいと沖野から連絡が入った。
華屋と祥子は沖野の居る病院に向かった。
あれから沙織からは連絡はなかった。
祥子も何度か連絡してみたが捕まらなかった。
たぶん結婚前で忙しいのだろう・・・・

病院に着くと沖野は二人を司法解剖が終わった死体に案内した。
「被害者は高野沙織、女、27歳・・・」
「高野沙織?!」そこまで沖野がカルテを読み上げた時祥子は思わず叫んだ。
そして慌てて死体にかけられているシーツをはいだ。
その死体はあの沙織に間違いなかった。
「どうして・・・・」
祥子は呆然としてしまった。
「知り合いかい?」
華屋は祥子に尋ねた。
「高校時代からの親友よ。」
「そうか・・・で・・・何が不審だって言うんです?」
華屋は沖野に聞いてみた。
「死因は大量の毒物を飲用による自殺・・・」
「沙織が自殺するなんて・・・そんなはず無いわ!」
反論する祥子を目で制止して沖野に続きを話させた。
「死因に関しては問題無いわ!間違いなく自殺・・・問題は彼女の身体・・・」
「何です?」
華屋が聞いた。
「無いのよ・・・子宮が・・・・」
「無いってどういう事です?」
「子宮って言うよりも子供を作る臓器を一式取り外したって感じね・・・」
「誰かが彼女の子宮を取り外したって事ですか?」
「沙織がそんな病気したなんて聞いてないわ!」
祥子が口をはさんだ。
「病気の為に除去したとは限らないさ・・・」
「それにしてもこの除去手術をした人間の技術は素晴らしいわ!
 まるで初めから無かったかの様に奇麗に取り除いてるもの・・・」
沖野が賛美するかのように言った。

二人は小林君のコンピュータールームを訪ねた。
「君のネットワークで違法な臓器売買の情報を集めてくれないか?」
華屋は単刀直入に言った。
「臓器売買って・・どういう事?」
祥子が尋ねた。
「病気でもないのに子宮が無いって事は意図的に取り除いたって事だ。
 その理由として考えられるのは・・・・・」
「臓器売買?そんなバカなこと・・・大体臓器移植が行なわれる臓器って
 肝臓とか腎臓とかで子宮の移植なんて聞いた事無いわ!!」
「しかし・・・もしも子宮の移植が可能になったとしたら移植を願う人間が居るはずだ」
沙織がそんな事するはずが無い!しかし状況証拠は華屋の説を否定できない。
祥子はとにかく真相を明らかにすればすべてが解決すると思うようにした。

二人で沙織の身辺を調査した。
が、手掛かりは掴めなかった。
一つだけ沙織が会社を設立するに当たってかなりの資金が必要だったのだが
その出所が解らなかった。
祥子には遠い親戚の遺産が入ったからと言ったらしいのだが
その遠い親戚の存在は確認されなかった。
二人は小林君のコンピュータールームに向かった。
小林君が何か掴んでないかを期待したのだ。
「何か解ったかい?」
華屋はいきなり聞いた。
「臓器売買の方はダメだよ・・・・」
その言葉に二人は肩を落とした。
「けど・・・かわりに面白い事が解ったよ」
「なんだい?」
小林君はキーボードを叩いてインターネットのホームページを表示させた。
「トランスジェンダーのページだよ」
「トランスジェンダーって?」
祥子が聞いた。
「自分の性に疑問を持つ人々だよ。で、そこに何があるんだい?」
「そこの掲示板で完全な性転換手術が行なわれてるって噂があるんだよ」
「完全な性転換??」
「正確に言うと男から女への性転換だけどね・・・
 その手術を受けた男性で子供を産んだ人まで居るらしいよ。」
「そんなバカな・・・・」
祥子は信じなかった。
「現在、遺伝子レベルでの性転換は行なわれている。
 それによってホルモン投与の副作用は皆無となった。
 が、しかしだ・・性器の整形などは10年昔とさほど変わりはない。
 肉体的な性転換に関してはまだまだ不完全である。
 もしもだ・・・子宮の移植が可能になって
 女性と何ら変わりが無くなったとしたら・・・
 性同一性障害の人はそれを望むだろう。
 そんな彼らの気持ちを商売にしている人間がどこかに居る・・・」


「本当にこの方法しかないのかい?」
華屋はこの台詞を何度も繰り返した。
「捜査の為だもの我慢しなさい。」
祥子はそう言って華屋をなだめた。
華屋をオカマに仕立て上げようとしているのだ。
噂の性転換して子供を産んだという男(女?)に会う事にしたのだが
警察が聞きに行っても絶対に手術した人間を教えてはくれないだろう。
そこで華屋に女性になりたい男を演じてもらい聞き出そうって事になった。
小林君の協力もあって華屋は完璧なオカマに変身した。

彼(彼女?)との待ち合わせは喫茶店だった。
華屋にしたら出来れば人目を忍んだ場所にしたかったが
先方が指定してきたので仕方なかった。
華屋が一人でコーヒーを飲んでいると、周囲でヒソヒソ話しが始まった。
自分の事を話しているのが十二分に解った。
華屋は早く彼が来てくれる事を祈った。
約束の時間ギリギリに華屋の前に一人の女性が現れた。
「あなたがメールくれた人?」
女は華屋に声かけた。
「そうよ。あなた・・・本当に元男?」
華屋は女言葉で聞いた。
「シー・・・そんな大きな声で言わないでよ!そうよ戸籍上は未だに男よ。」
「見事な性転換手術ねぇ・・・」
性転換の部分は声を落とした。
「で・・・何が知りたいの?」
「もちろん、性転換手術の事よ!」
「あなた・・完璧な女になりたいの?」
「私・・・彼の子供が産みたいの!!彼は、そんな事気にするなって言うけど・・・
 でも・・・私は彼の子供が産みたいのよ!!お願い教えて!!」
華屋は我ながら完璧な演技だと自分で思った。
彼女(彼?)はしばらく考えて
「解ったわ・・・・ここに連絡してみなさい!」
そう言って電話番号の書いたメモを華屋に渡した。
別れ際に彼女は
「頑張ってね・・・そして幸せつかんでね!!」
と優しい笑顔を華屋に向けてくれた。
華屋は少し罪悪感にかられた。


性転換手術を請け負ってる医者の身元はすぐに解った。
佐々木健次郎40歳・・・数年前まである大学病院に勤めていたが
腕は超一流なんだがあまりの大胆な治療をするので追い出される形で
病院を辞めていた。
その辞めるきっかけになった治療の一つに性同一障害の治療があった。
二人は佐々木の診療所に向かった。

診療所に着くと佐々木は二人を応接室に迎え入れた。
「いつかはこんな日が来るとは思ってましたよ。」
佐々木は悪ぶれた様子も無く静かに話し始めた。
「確かに今の法律では違法かもしれない・・・
 しかしこの方法で間違いなく性同一障害で苦しんでる患者は救われてます。
 私は間違った事をしたとは思ってませんよ。」
「子宮を取られる女性を犠牲にして、何が間違ってないだわよ!!」
祥子が叫んだ。
「犠牲?私は一度だって女性から無理強いして臓器の提供を
 お願いした事はありませんよ。
 あなたがた女性は子供を産む事を放棄してるじゃないですか・・・
 子供を産むという素晴らしい能力を無駄にしている。
 だから私はその能力を高額で買い取ってるだけですよ。
 子供を産みたがらない女性から子供を産む能力を買い取り
 それを子供を産みたい男性に売る・・・それのどこがいけないんですか?」
祥子は佐々木に対して反論したかった。
が・・・旨く反論する言葉が浮かばなかった。
「後は取調べで話しを聞こう。」
華屋が言った。

取調べに対して佐々木は素直に自供した。
一つ困ったのが佐々木に助けられたオカマ達が抗議に着た事だった。
事件は解決したが祥子は気持ちが晴れなかった。
沙織は自分の子供を産む能力を高く売って会社設立の資金を作ったのか?
子供を産む能力を捨てて仕事を選んだのか?
あの日・・・留守電が入った日、自分に何を話したかったのか?
そして・・・何で自殺したのか??
祥子にとっては何一つ解決してなかった。



fin




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