東北地方の小さな村に、小さなロボット製造メーカーがありました。
ある日、ひょっこりやってきた男が設立しました。
従業員は無く社長一人の本当に小さな会社でした。
ロボット製造メーカと言っても実際には農機具の修理や依頼されて簡単な
案山子ロボットを作るのが主な仕事でした。
村人たちはロボット作っている会社だとは知らず、便利な修理会社だと思っていました。

この社長には夢がありました。
それは巨大ロボットを作る事です。
会社の裏の倉庫では巨大ロボットを作っていました。
今作っているロボットは歩行タイプのロボットではなく、払い下げられたショベルカーを
改造して作っているキャタピラ走行ロボットでした。
アニメのロボットのように二本足で歩かせるのは現時点では難しかったので、
第一段階としてキャタピラタイプのロボットを作ることにしました。

この会社に頻繁に遊びに来る子供が居ました。
小学5年生の守君でした。
ロボットを作っている会社だと、偶然知りワクワクしてやってきました。
しかし実際にはTVとかで紹介されているヒューマノイドロボットがある訳でもなく
農機具を修理していたり、オモチャみたいな案山子を作っているのにがっかりしました。

それでも社長がロボットについての面白い話しをしてくれるので
守君は学校が終わると作業場に遊びに来るようになりました。

その日も守君は、いつものように学校が終わってから遊びに来ました。
「こんにちは!!」
元気良く作業場に入りましたが、社長は居ませんでした。
守君はしばらく案山子ロボットをイタズラしたりしていましたが、飽きてしまい
帰ろうかなと思っていたところ突然裏の倉庫の方から轟音が聞こえてきました。
守君は急いで作業場を飛び出し、裏の倉庫に向かいました。

轟音は倉庫の中から聞こえてきました。
やがて倉庫からキャタピラタイプの巨大ロボットが現れました。
そのロボットはキャタピラの上に張りぼての身体をつけたようでした。
その身体から出ている腕はショベルカーのアームが改造されたモノでした。
守君には、お世辞にも格好良いとは思えませんでした。
しかし社長は嬉しそうに操縦していました。

「社長!!」
守君は社長に声をかけました。
しかし、轟音にかき消されて社長は気づきませんでした。
「おーい!!社長!!」
守君は一生懸命手を振って叫びました。
社長は守君に気づき、ロボットのエンジンを切って
「やぁ・・・守君。どうだ凄いだろ・・・?」
社長は自慢気に言いました。
「なんなのこれ??」
守君は聞きました。
「救助ロボ久蔵壱式だよ。」
社長は言った。
「きゅうぞういちしき??」
守君は、あまりのダサいネーミングに目が点になってしまいました。
「社長・・・見た目も名前もダサすぎ・・・」
そして本音を思わず言ってしまいました。
「そうか・・・格好良いと思うけどな・・・・」
守君の評価もそれほど気にしていませんでした。
そして
「久蔵しまって来るから、作業場で待ってて。」
そう言って社長は久蔵壱式を操縦して倉庫へ向かいました。
守君は言われたとおり作業場で待っていました。

しばらくすると、社長が作業場に戻ってきました。
「社長、どうせ作るならスーパーロボット作ってよぉ!」
守君は社長に言いました。
「スーパーロボット?二足歩行ロボットかい?」
「そうそう・・・格好良い奴。」
「それじゃ聞くけど、巨大な二足歩行ロボットに守君なら何をさせる?
「もちろん!悪い奴をやっつけるのさ!!」
守君はすぐに答えました。
「でも・・悪い奴ってどこにいるの?」
社長は、ちょっと意地悪な質問をしました。
「それは・・・」
守君はちょっと答えに詰まってしまいました。
「せっかく作ったロボットだもの、何か役に立つロボットにしないとね。」
「それじゃ・・・久蔵は何の役に立つの?」
守君は少しすねた感じで聞きました。
「だから・・・救助ロボットだって言ったでしょ。」
「何を救助するのさ?」
守君は聞いた。
「例えば地震とか土砂崩れとかの災害の現場の復旧作業に使おうと思ってね。」
「でも・・それならショベルカーとかでも良いじゃない・・・」
「もう少し研究を重ねて、センサーとか取り付けて瓦礫の下に埋まった人を
 見つけられるようにしたり、人が行けないような現場には遠隔操作で動かせるようにしたり・・・
 まぁ色々と研究中さ。」
「でも・・・やっぱり巨大ロボットは人型だよ!!」
まだ守君は納得できないようでした。
もっとも社長もいずれはロボットアニメに出てくるような巨大ロボットを作って
操縦したいって思っているのだから、守君のそんな気持ちを攻めることは出来ませんでした。
「まぁ・・・最終的には人型作ろうとは思ってるけどね・・・」
「ホントに?!その時は僕も乗せてくれる?」
「もちろん!!」
「わーい!!やった!!」
「おいおい・・・まだ出来るかどうかも分からないんだから・・・」
「絶対に作れるさ!!」
そんな守君の言葉に社長はまんざらでもなかったです。
ただ・・社長が完成度の高い救助ロボットを作りたい気持ちも嘘ではなく
まずは久蔵をもう少し研究を続けようと思ってました。

それからしばらく社長は久蔵の研究に没頭しました。
時々、村の人に頼まれて久蔵を使って工事現場を手伝ったり、解体工事を手伝ったりしました。
そうやってデータを集めていたのでした。
そして更に久蔵は改造されて、足場のかなり悪い場所もスムーズに歩けるような
多足歩行タイプになりました。
ただ・・・相変わらず守君の評判は悪く
「社長・・・あれじゃ久蔵は悪者ロボットだよ!!」
と言われました。
守君にどう言われ様とも社長じゃ更に久蔵を研究し続けました。
そして、ある程度納得のいく救助ロボットにすることが出来ました。


季節は冬になりました。
今年は大雪で、毎日除雪車が出動していました。
社長も会社の裏の空き地で久蔵の雪上歩行テストを続けていました。
やはり雪道の歩行は難しく、かなり頭を悩ませていました。

そんなある日、かなりの大雪がふりました。
あちこちで雪の被害が発生して、村の消防団は大忙しでした。
そんなさなか、守君が大慌てで作業場にやってきた。

「社長!!大変だぁ!!」
コンピューターのモニターとにらめっこしていた社長はのんびりと返事をした。
「やぁ守君・・・どうしたんだい?」
「卓也君のうちが雪でつぶれちゃったんだよ。」
「それは大変だ・・・すぐに駐在さんに連絡しないと・・・」
社長は、そう言って受話器を取ろうとすると
「ダメだよ!!僕も駐在さん処へすぐに行ったんだけど居ないんだ。」
「そうか・・・今日はあちこちで被害が出てるって言ってたっけ・・・」
「卓也君のおばあちゃんが逃げ遅れたんだ。まだ家の中に居るんだよ。
 早く助けないと死んじゃうよ・・・」
最後のほうは涙声になっていた。
社長は意を決したように
「よし!!久蔵を出動させるか!!」
「え?!」
「守君も手伝ってくれるかい?」
「もちろん!」
守君の顔が明るくなりました。

社長と守君はヘルメットをかぶって久蔵に乗り込みました。
守君は初めて久蔵に乗ったので少しドキドキしていました。
そこでハッと気づきました。
「社長・・・そう言えば雪道走行のテストはうまくいったの?」
「ん?3回に1回は転ぶよ。」
社長は平然と言いました。
「え?!もしかしたら転ぶかもしれないの?」
守君が言うと社長は笑顔で
「だから・・・ヘルメットかぶったんだよ。」
と言いました。
守君は久蔵に乗った事を後悔しました。
それでも、卓也君のおばあちゃんを助けられるのは久蔵だけなのも間違いないです。
だから、怖くても我慢することにしました。
30分ほどして卓也君の家の前に着きました。

卓也君の家の前では卓也君のお父さんが潰れた家の柱を退けようと奮闘していました。
しかし、一人の力ではどうする事も出来ず、柱はビクともしませんでした。
卓也君とお母さんは一生懸命 家の中のおばちゃんに呼びかけていました。

と、突然現れた久蔵にみんな吃驚しました。
社長はマイクのスイッチを入れて言いました。
「今、柱を退かしますから離れて下さい。」
社長だと分かり、卓也君家族は少し離れました。
社長は守君に
「守君・・・そこのスイッチ入れてサーモグラフィーを起動して。」
と指示しました。
守君は言われたとおりスイッチを入れると目の前のモニターが映りました。
「赤が温度が高く、青くなるほど温度が低いから・・・」
「おばあちゃんの体温は暖かいから赤い部分を探せば良いんだろ?」
社長が説明している途中で、守君はすぐ意味に理解していました。
「そう言うこと!」
そして、社長は慎重に久蔵を操作して雪と潰れた家の柱を退けました。
だいぶ、掘り進みましたが、まだおばあちゃんの姿は見えませんでした。
「もしかして・・・」
社長は最悪の結果を思い始めていました。
守君も必死にサーモグラフィーのモニターを見ていました。
すると・・・
「あっ!赤い反応あった。」
守君が叫びました。
だいぶ体温が奪われているようですが、それでもまだ赤い部分がありました。
「早く!!おばあちゃんを助けてあげて!!」
社長は更に慎重に操作して、おばあちゃんを避けるように周りを掘り進みました。
やがて、おばあちゃんの着物らしきものが見えてきました。
それが見えると同時に、卓也君のお父さんがおばあちゃんに駆けよりました。
社長は、また別のスイッチを入れました。
すると、久蔵の胸の辺りからカプセル状のモノが出てきました。
社長は、またマイクもスイッチを入れて
「おばあちゃんをすぐその中に入れてください。」
と言いました。
卓也君のお父さんは言われたとおり、おばあちゃんをカプセルに入れました。
また社長は別なスイッチを入れました。
するとカプセルの温度が上がり、おばあちゃんの身体を温めて、
凍傷の応急処置をとりあえずおこないました。
そしてすぐに救急車を呼びました。
しかし、やはり大雪ですぐには来れないとの返事に、仕方なく久蔵で
ふもとの病院に運ぶことにしました。

幸い雪道で転ぶことも無く久蔵は無事おばあちゃんを病院に連れて行けました。
久蔵の出現に病院のスタッフは吃驚しましたが、すぐにおばあちゃんの受け入れをしました。

とりあえず久蔵の活躍で、おばあちゃんの救出ミッションは終了しました。
守君は、久蔵の事を少し見直しました。


卓也君のおばあちゃんは一週間ほどで退院しました。
幸い、柱と柱の間の隙間に居た為に大きな怪我もありませんでした。
ただ、あのまま閉じ込められていていたら間違いなく凍死していたと医者が言いました。

この久蔵の活躍が新聞の地方版に載りました。
それを見たTV局が取材を申し込んできました。
守君は久蔵がTVに出れると思い大喜びしていました。
ところが社長はTV局の取材を断ってしまいました。
守君はなんで取材を断ったのか理解できませんでした。
そして社長に聞きました。
「社長、なんで?TVの取材断ったの??」
ところが社長は
「あはは・・・」
と笑ってごましました。
守君は納得が出来ませんでしたが、それ以上聞くことも出来ませんでした。

それからしばらくして1通のメールが社長の元に届きました。
そのメールには、自分達は海外の戦地で救助活動をおこなっているNPO団体で
今回の久蔵の活躍を知り、ぜひとも自分たちにも久蔵を作って欲しいとの事でした。
もし良かったら会って話しがしたいと書いてありました。
社長は久蔵が人の役に立てる事を喜んでいました。
すぐにメールの返事を出しました。
そして一週間後に会う約束をしました。

それからの一週間、社長は更にもっと久蔵の性能を高めようと研究を続けました。
守君も社長の手伝いをしました。
久蔵が海外で活躍している姿を思い浮かべ嬉しくなってました。
「守君・・僕は嬉しいよ・・・僕の作ったロボットが人の役に立てるなんて・・・」
「社長、僕もだよ!!」
二人は楽しそうに作業をやっていました。

一週間後、作業場にその人達はやってきました。
一人は外人で金髪の白人でした。
守君もそうですが、村の人達もはじめて見る外人に興味津々でした。
作業場には気がつけば人だかりが出来ていました。
もう一人は小柄な日本人でした。
作業場に入ると、小柄な日本人が自己紹介を始めました。
「始めまして。私は田中と言います。彼はマイクです。」
そう言うとマイクは
「ハジメマシテ。マイクデス。」
片言の日本語を言って握手を求めてきました。
「はじめまして。よろしくお願い致します。」
社長は嬉しそうに握手しました。
田中は、そばに居る守君に気づき
「ご子息ですか?」
と聞いたので社長は
「いえ、私の大事なパートナーです。」
と答えました。
それを聞いて守君は嬉しくなりました。
「守と言います。」
そう言ってペコリと頭を下げました。

それから社長は久蔵について技術的な話しを始めました。
守君は殆ど理解できなかったけれど、この打ち合わせに参加できただけで嬉しかったです。
特に社長が自分の事をパートナーと言ってくれた事だけで最高の気分になりました。
社長はしばらく説明した後、二人を裏の倉庫に連れて行き久蔵を見せました。
久蔵を見てマイクは
「スバラシィ!!」
と大喜びして写真をバチバチ撮りました。
田中も一生懸命にノートに何かを書いていました。

やがてかなり時間も経ってしまい、夕方になったので続きは明日にしようと言う事になり、
田中が近くのホテルを紹介してくれと言いました。
しかし、田舎なのでホテルはふもとまで行かないとありませんでした。
卓也君の親戚が民宿やっているので、そこを紹介しました。
今、ちょうど卓也君一家もそこにお世話になっていました。
守君が田中たちの車に乗って民宿まで道案内しました。

民宿は昔の家をそのまま使っているので風格がありました。
マイクはまた大喜びで
「ワンダフル!!」
と言って写真を撮りまくりました。

守君は来たついでに卓也君の処へ遊びに行きました。
そして今日有った事を熱く語りました。
そんな事していたのでかなり遅くなってしまい、焦った守君は慌てて家に帰ることにしました。
民宿の玄関を出ようとすると、公衆電話で田中が電話をかけていました。
ここは携帯の電波も届かない田舎なので、電話は公衆電話使うしかありませんでした。
守君は田中に挨拶しようと近づくと田中の声が聞こえてきました。
「そうです、あれは使えますよ!!」
田中は、かなり興奮して話していた。
たぶん久蔵の事言っているんだろうと守君は嬉しくなりました。
余計挨拶したくなりました。
「更に武装すれば兵器として欲しがる国はいくらでもあります。」
武装・・??兵器・・・??
予想外の言葉に守君は止まってしまいました。
あいつらおかしい・・・守君は田中達に不信感を抱きました。
社長に知らせないと・・・
そう思って田中に気づかれないように玄関を出ようとして振り返るとマイクが立っていた。
「コンバンワ」
ニヤニヤしながら片言の日本語を話していた。
「こんばんわ。」
何食わぬ顔して、行こうとするとマイクは守君の腕を掴んで
「ダメダメ・・・イマノハナシキイタデショ?モウカエレナイヨ・・・」
そう言った。
守君は、絶体絶命です。
そして、社長助けて・・・と、心の中で叫ぶのが精一杯でした。

その晩、社長の処に守君の家族からまだ帰ってこないと連絡が入りました。
すぐに社長は民宿に向かいました。
民宿の主人も卓也君の家族もずいぶん前に帰ったと言いました。
そんな騒ぎに奥から田中が出て来ました。
「社長さん、どうかしました?」
田中が聞きました。
「すみませんお騒がせして。守君が帰ってないというもので・・・」
「それは大変ですね。もしお手伝いできる事がありましたら言って下さいね。」
「ありがとうございます。」
田中は自分の部屋に戻りました。
駐在さんも来て捜査を始めましたが手がかりがつかめず、夜が明けると同時に
消防団に山を捜索してもらう事にしました。

次の朝早く、消防団は山狩りを始めました。
社長も気にはなりましたが、打ち合わせがあるので仕方なく作業場で田中達を待ちました。
田中達と久蔵の仕様について打ち合わせをしていくうちに、社長は違和感を覚えました。
田中達が重要視するモノが、どう考えても災害救助に必要無い部分だったからです。
話しを続けていくうちに社長は、彼らが久蔵に何を求めているのか見えてきました。
それは久蔵を兵器として使いたがっていると言う結論でした。
どうやら田中達にだまされたようでした。
久蔵を兵器なんかに使われたくない!
そう思った社長は
「田中さん・・・すみません・・・この話し無かった事にしてもらえませんか。」
とこの話しを断りました。
突然の社長の発言に田中は戸惑った。
「どうしたと言うんですか?お金でしたら御要望の金額をお支払いいたしますから。」
「いえ・・・そう事ではなく・・・なんか気乗りしないもので・・・」
「そんな・・・」
田中は困った顔をしました。
「勝手言ってすみません。」
社長は深々と頭を下げました。
そんな姿に田中とマイクは顔を見合わせて
「頭を上げて下さい。分かりましたから。」
社長はホッとして
「本当に申し訳ありません。」
また社長は頭を下げました。
すると突然田中が話し始めました。
「守君・・・見つかると良いですね・・・・」
そう言って田中はタバコに火をつけました。
なぜ急に守君の話しをするのか社長は理解できませんでした。
「私達なら守君を見つけること出来るかも知れませんよ。」
田中は笑顔でそう言いました。
その言葉の意味を社長すぐに理解しました。
「まさか・・・あなた達が・・・」
「どうします?あなたの返事ひとつで守君が見つかるかもしれませんよ。」
社長に選択の余地はありませんでした。
「分かりました。設計図、資料はすべて渡します。だから守君の安全は約束してくれ。」
「今あるあの機体もだ・・・」
田中は言いました。
社長は久蔵の起動キーを見せました。
「それで守君は何処に居る?」
社長は聞きました。
田中は外に止めてある車を指差しました。
「あんな処に・・・・」
社長は田中達に怒りを覚えました。
「守君の姿を見せてくれ。そうしたらこれを渡すから!!」
社長は言いました。
「いいだろう・・・」
田中はマイクに指示をしました。
マイクは車のトランクを開けて中から守君を出し、そして猿轡をされロープで縛られた守君を
担いで戻ってきました。
「さぁその起動キーをこちらに渡してもらおう。」
田中は言いました。
「守君と交換だ。」
社長も負けずに言いました。
「分かった。交換だ。」
田中は仕方なくマイクに指示をしました。
マイクは守君を降ろし、猿轡とロープを外しました。
「社長・・・」
守君はか細い声を出しました。
かなり衰弱していました。
「守君・・・もう大丈夫だからね。」
社長は笑顔で言いました。
守君はゆっくりとこちらに歩いてきました。
社長もゆっくりと近づき、久蔵の起動キーを高く放りあげました。
田中とマイクが起動ーキーの方を向いた瞬間
「守君!ふせて!!」
社長は叫びました。
そして手に持っていたリモコンのスイッチを入れました。
すると、作業場にあった案山子ロボットが動き出し、田中とマイクの方を向いて
トリモチを発射しました。
立っていた田中達が案山子ロボットのセンサーに反応して狙われたのです。
突然の攻撃にビックリして二人は慌てて表に出ました。
更に社長は別のスイッチを入れると外に立っていた案山子ロボットのサイレンが鳴り始めました。
吃驚した田中達は慌てて車に乗り込み、逃げていきました。

社長は守君に駆け寄り声をかけました。
「大丈夫かい?」
「あいつら悪い奴だよ。久蔵を兵器にする気なんだ。」
「わかってるよ。それじゃ悪人退治にいくかい?」
「え?」
「スーパーロボットは悪い奴らをやっつけるんだろ?」
社長が笑顔で言いました。
守君も笑顔で
「もちろん!久蔵出動だぁ!!」
と叫びました。

久蔵に乗り込んだ社長と守君は田中達に追いつくために道無き道を滑り降りていきました。
「社長・・・大丈夫なの?」
守君は心配そうに聞きました。
何度もバランスを崩す久蔵に守君はハラハラしていました。
守君の質問に答える余裕も無く真剣な表情で社長は久蔵を動かしていました。
守君も覚悟を決めて、しっかりとシートにしがみついていました。
やがて、林を抜けて道路に飛び出ると目の前を田中達の車が見えました。
「よし!追いついた。」
社長が言いました。
そして
「守君、そこのレバー引いてアンカーの発射準備してくれる?」
と言いました。
守君は言うとおりレバーを引くと目の前のモニターに照準が表示されました。
「後ろのトランク狙ってアンカーを打ち込んで。」
「了解!」
守君は標準を田中達の車に合わせて発射のボタンを押しました。
バシュ!!
空気圧で飛ばされたアンカーは見事に後ろのトランクに食い込みました。
「守君、踏ん張って!!」
社長は、そう言うと同時に久蔵を急停車させました。
アンカーを打ち込まれた車も急停車し、シートベルとしていなかった田中達は
フロントガラスに思い切り頭をぶつけて気を失いました。
「やったぁ!!」
守君が言いました。
久蔵を田中達の車に近づけて、逃げられないようにしっかりと掴みました。
しばらくして遠くの方からパトカーのサイレンが聞こえてきました。
「後は警察にまかせよう。」
社長が作業場を出る時に警察に連絡を入れておいたのでした。
「ミッション終了!・・・だね。」
守君がニコニコして言いました。
「とにかく君が無事で良かった・・・」
社長も笑顔で言いました。

やがて到着した警官達に田中達は連行されました。
一応、社長と守君も事情聴取の為、久蔵に乗って一緒に警察署について行きました。

その後また、久蔵の事がマスコミに取り上げられましたが、やはり社長は一切の取材を拒否しました。
マスコミだけではなく色々な企業から久蔵の問い合わせが来ました。
社長は、その一つ一つの問い合わせに対して慎重に対応して、今回みたいな事が
二度と起きないように気をつけていました。

そして、ある企業が社長の技術力を評価して、ぜひとも自分の企業と共同研究をして
レスキューロボットの開発、製造して欲しいと言う話しがきました。
社長も自分なりに色々と調べましたが、本当にレスキューロボットの開発を検討している
企業だと分かり、その話しを受ける事にしました。

一週間ほど社長はその為の打ち合わせに東京に行ってしまいました。
守君は社長の居ない作業場に来ていました。
守君なりに今回の話しが良い話しだって理解してました。
そして・・・たぶん社長はここから出て行くだろうと思っていました。
こんな田舎に居るよりは東京で研究した方が良いに決まっていると・・・
守君は久蔵に乗り込んでシートに座ると涙がこぼれてきました。
どうしても涙を止める事は出来ませんでした。

一週間経ち社長は戻ってきました。
そして作業場の整理を始めていました。
守君はいつものように作業場にやってきました。
「こんにちわぁ!!」
守君は元気に挨拶しました。
作業場を整理している社長を見て、やはり出て行くのだと思いました。
守君は、また涙がこぼれそうになりましたが、我慢しました。
「やぁ・・・守君・・・」
社長は相変わらず暢気に言いました。
「社長・・・やっぱり出て行くの?」
守君は恐る恐る聞いた。
「出て行く?どこへ??」
「だって・・・東京へ行くんでしょ。だから片付けやってるでしょ。」
「あぁ、大丈夫。僕は出て行かないよ。」
「え?!本当に?」
「研究はここで続ける事を条件に今回の話しを決めたんだ。そのかわり・・」
「そのかわり?」
「その会社から一人研究員が来るのが向こうの条件なんだ。」
「そっか・・・良かった!!」
「なんだい、僕が出て行くと思ったのか?」
「だって・・・その方が・・・こんな田舎に居るより・・・・」
「僕はここが好きなんだよ!!そしてここは久蔵の故郷じゃないか」
「そっか・・社長、僕も勉強してロボット学者になる!!」
「それじゃ、守君が僕の後を継いでくれるまでは出て行かないよ!」
「ほんと!?約束だよ!!」
「もちろんさ。」

こうして社長の会社はこの村に残る事になりました。

この後の社長は言うと、相変わらず農機具の修理と簡単な案山子ロボットなんかを作り、
その合間に新しいレスキューロボットの開発をしていました。
「社長。今度の新しい久蔵は二足歩行ロボットにしてね。」
守君も相変わらず作業場に遊びに来ていました。
そんなのんびりした状況に、出向してきた研究員はイライラしていました。
さてさて、新しい久蔵はいつ完成するのでしょうか?
それはまたの機会に・・・
           


Fin