21世紀に入り、ロボットの開発が飛躍的に進歩しました。
それは企業の研究室や大学の研究室がきっかけではありませんでした。
子供の頃見たロボットアニメに影響された学生や好き者達の
趣味で造っていたロボットを集め、自主的に開催した二足歩行ロボットの
競技会がきっかけでした。

誰もが無謀だと思っていましたが、意外にも完成度の高いロボット達が
エントリーされました。

大盛況で幕を閉じた競技会は、次の年もまた次の年も開催されました。
年を重ねるごとに、出場するロボット達のレベルは飛躍的に上がってきました。

ある日、その競技会の常連達が集まり実物大のヒューマノイドロボットを
造ってみないかと言う話しになりました。

最初の競技会から数年経ち、その当時学生だった参加者も様々な企業に就職していました。
元々が技術の有る人達なので、すぐにそれぞれの企業のノウハウを吸収していました。
それらの最先端技術を使い、なおかつコスト無視のロボット開発は
どこの研究施設でも成し得なったモノが造られようとしていました。

唯一問題だったのは資金でした。
各自の手弁当でやっていましたが、個人の資金には限界がありました。
もう少しと言うところまで来て、資金が底をつきました。

ここまでかと誰もが思ったときに、有志でヒューマノイドロボットを
造っていると言う噂を聞きつけたある企業が資金援助を申し出てきました。

その企業は中堅処では有りましたが、なかなかのやり手の社長で儲かりそうだと
思う事にはすぐにお金を出す方針でした。

フットワークの軽さが売りで、それなりの業績を出していました。
この企業は、人間そっくりの受付ロボットを欲していました。
資金援助する代わりに、高精度の受付ロボットを造ることが条件でした。

造るロボットの使用目的が出来たことで、更にロボットの精度が上がりました。
一年ほど経って、受付ロボットを完成させました。

完成された受付ロボットは好評でした。
二足歩行も出来、AIが搭載されており簡単な会話も出来ました。
マスコミなどにも紹介され、この受付ロボットは世間で有名になりました。

こうなると、このロボットを欲しがる企業が増えていき、片手間でロボットを
造っていけない状況になりました。

そこで、製作メンバーは今の会社を辞め、会社を設立することにしました。
ロボット製造メーカ「ホムンクルス」の誕生でした。

より人間に近いヒューマノイドロボットの開発を目指して研究を続けました。
受付ロボットだけでなく、介護ロボット、更には人間の代わりに軽作業くらいは
出来るロボットを目指して開発は進められました。

そしてある年、ロボット展示会に出展するために究極のヒューマノイドロボット
開発プロジェクトチームが設立されました

究極のヒューマノイドロボットとは、人間だと言っても疑われないくらいに
人間そっくりのロボットです。

確かに「ホムンクルス」製のロボットは、業界でも好評ではありましたが
やはり、見た目はロボットとしか見えませんでした。

それが、顧客によっては不満だと言う意見もありました。
人間に間違われるほどのロボットが求められていました。

それと、やはり当初の目標が完璧なヒューマノイドロボットの製造だったので、
このプロジェクトは会社としてもかなり力が入れました。

かなりの予算が組まれ、優秀なスタッフも集められてプロジェクトは進められました。

試行錯誤はあったものの、数ヵ月後には、納得のいくロボットが完成しました。

女性型ヒューマノイドロボット「イブ1号」の完成です。

展示会に出展された「イブ1号」は、その完成度の高さにインターネット上で
実はアルバイトの女性がロボットのふりをしていると言う噂まで飛び交っていました。
展示会が終了後様々な分野から問い合わせが殺到しました。

イブ1号は、介護の分野で活躍しました。
排泄物の処理や入浴などは、人間相手だと気を使ったりプライドが傷つけられたりしますが
ロボットならば、その辺が軽減され
、また、イブ1号ならば見た目は人間そっくりなので
機械にやられていると言う
感覚も軽減されると言う事で介護関係の企業の注文が殺到しました。

また、接客関係の業界からも問い合わせがあった。
イブ1号ならば人件費が軽減され、なおかつ会社の望んだ通りの人材になると
言うことで、これらの業界からも注文が殺到しました。
飲食関係が特に注文が多かった。

それ以外にも自宅のメイドとして、高価ではありましたが一部の好き者が
個人の趣味として購入するケースがありました。

一年先まで、注文が決まってしまいました。
「ホムンクルス」の業績は、凄い勢いで上がっていきました。

このまま順風満帆にいくかと思われたある日・・・・
ゴシップ誌に「ホムンクルス」の記事が載りました。

女性型ロボットであるが故に、仕方が無い中傷ですが
高精度、高機能のダッチワイフ的な記事が載りました。
それだけなら、インターネット上で散々書かれていた話題です。
その記事が注目されたのは、「ホムンクルス」ではSEXが出来るロボットが研究開発中
だと言う部分です。

おまけに研究員のインタビューまで載っていました。

事実、「ホムンクルス」ではSEXが出来るロボットの研究は進められていました。

それは、風俗業界からの要望が有ったのも一つの要因ですが
その研究チームの責任者は、介護ロボットの能力の一つとして
考えて研究していました。

あまり、表には出ませんが身障者や高齢者の性欲の問題は昔からありました。
それらを解消する方法として、ロボットを使おうと言う試みが提案されました。

ただ、この問題については、非常にデリケートな問題なので何度も会議が開かれ、
審議を繰り返していたところでした。

その情報をどこからか聞きつけた記者が、研究員にインタビューを申し出ました。

その研究員は、中々決めない会社にイライラしていて、自分の想いを雑誌に
載せてもらうことに
よって状況が変わるかと思い、インタビューを受けました。

しかし、研究員の思いとは別に、面白おかしくSEXが出来るロボットと言う部分だけしか
記事になりませんでした。


その研究員は自分のやった浅はかさを悔やみ、会社を辞めてしまいました。
しかし、それは一研究員が辞めたことで収まる事ではなくマスコミは更に面白おかしく
騒ぎ立てました。


その波紋は顧客に広がり、イブ1号を使っていた企業は次々と使用をやめてしまい、
使っていたことさえ隠すようになりました。


個人で買ったユーザは、家族や友人に変な目で見られ、中には離婚問題や
破局を迎えたカップルも居ました。

その為、密かに使っていたユーザの中には、周りに知られる前にイブ1号を
不法投棄する人も現れました。

「ホムンクルス」も社員たちの動揺が広がり退社者が次々と現れました。
その為、事実上業務停止状態になってしまいました。

やがて、そんな騒動も時間と共に忘れられてしまいました。
イブ1号の存在も人々記憶から消えかけていました。
それでもイブ1号やロボットと関わっている人は存在していました。


人とロボットの物語は、ここから始まります・・・・