第4話 恋文

チュン!チュン!

雀達の声が聞こえ始めた。

その声に俺は目を覚ました。

また・・一日生きながらえてしまった・・・

早く・・あいつの所へ行かないと・・・

そう思っているのに、夕べもまた行けなかった。

見ると飲んだ薬が全部吐き出されていた。

薬の影響か頭がガンガン痛い。

このまま死ねたらどんなに良いか・・・・

しばらくボォーとしていた。

時計が出社の時間を示していた。

俺は、重い身体を起こして身支度を始めた。

今更、会社に行く必要もないのだけれど、下手な行動をすると周りに妨害される

可能性が有るから一応普通の生活を送っている。

そんな事を考えられる自分の冷静さに驚いた。

もう何度も自殺を試みた。

手首を切ろうとしたが致命傷になるまで切れなかった。

生への執着なのか、今一歩の所で踏み留まってしまう・・・

首を吊ろうと近くの公園にも行ったが警察に職務質問され未遂に終わった。

その為、警官に目を付けられてしまいビルの屋上にも上がれなかった。

そして夕べ・・薬を飲んで自殺を図ったが・・結局・・こうして失敗に終わった。

なんで・・こんなにまでして死のうとしてるのか・・・

それは一週間前の事故が原因である。

そう・・一週間前までは、それなりに幸せだった。

あいつと喧嘩しながらも楽しい日々を過ごしていた。

そして・・それはいつまでも続くと思っていた。

それなのに・・突然の交通事故で、あいつが死ぬなんて・・・

俺は信じられなかった。

しかし・・それは現実だった。

俺は、あいつの遺体を目の当たりにして呆然としていた。

人間って、あまりにも悲しすぎる出来事に直面すると感情が硬直してしまうモノらしい

あいつの顔を見て、悲しいとか言う感情よりも俺もこいつと同じ所に行こうと思った。

あいつが俺を待ってる。そう思った・・・

平然としている俺を周りの人間は冷たい奴だと囁きあっていた。

そんな事は俺には関係なかった。

俺の頭にあるのは、あいつの所に行く事だけだった・・・




あいつが死のうと、会社では何も変わらない日常が続いていた。

いつもと変わらぬ単調な作業、上司の嫌み、面倒な人間関係・・・

今までは、俺にとって頭を悩ませていた事だったが今となってはどうでも良い事だ。

そんな事で頭を悩ませてた頃が懐かしくさえ思えた。

トルゥゥゥゥルゥゥートルゥゥゥゥルゥゥー 

目の前の電話が鳴った。

電話を取ると、あいつのお袋さんからだった。

あいつの遺品を渡したいから今夜来てくれと言う事だった。

俺にとって、あいつの遺品なんて関係なかった。

なぜなら・・もうすぐ・・あいつに会えるんだから・・・

しかし・・断る理由もないので、その夜あいつの家に行った。




あいつの遺品って言うのはノートパソコンだった。

あいつの両親が自分達が持っていても仕方無いので俺に貰ってくれと言った。

部屋に戻るとノートを机の上に無造作に置いた。

俺にとってあいつの遺品なんかより今夜こそあいつの所に行く事の方が重要だった。

が・・なぜかこのノートパソコンが気になった。

俺はノートパソコンの電源を入れた。

メニュー画面が現れた。

見れば特に目新しいアイコンは無かった。

俺は、あいつがどんなサイトに行っていたのか気になり俺のルータにつないで

インターネットが出来るように設定した。

ネットにつなぐと、あいつのブログが表示された。

「あいつ・・ブログなんかやってたんだ・・・」

俺は、あいつの意外な一面を見たような気がした。

俺には一言もそんな事言わなかったのに・・・

バックナンバーをチェックしてみた。

3年前の2月のブログを何気なく見ると


 今日、凄い頭にきた!!
 スキーに行ってきたんだけど、一緒に行った中に凄い失礼な奴が居たんです。
 初対面なのに人の事を太ってるだとか生意気だとか・・・
 あんな失礼な奴初めてだわぁ!!


俺は苦笑した。

あいつと初めて会ったのは3年前友達に誘われたスキーだった。

普段から口の悪い俺は、いちいち反応するあいつが面白くて太ってるだとか

言ってたのを思いだした。

こんな事思ってたんだ・・・

それなのに何であいつ・・

その後写真を見せるために、もう一度集まった時に

仲直りというか何となく気が合ったみたいなのかなぁ・・・

俺はその日のブログを見てみた。


 この間のスキーの時に居た失礼な奴にまた会ってしまった。
 もう二度と会いたくなかったのに・・・
 相変わらず失礼な事ばっか言うんだから・・・
 あんな奴には彼女なんか出来るわけないわ!!
 彼女になるような女の子の顔を見てみたいわ!!


全然良く思ってないじゃないか・・

俺はログを続けて見ていった。

その後には俺の事は話題には無かった。

たしか・・何度かデートに誘ったはずだけど・・・

気にもとめられてなかったのかな??

なんか・・裏切られた気分になっていた。

が・・・


 フフフ・・・
 今日・・良い事があったの・・・
 それは何かって?
 ひ・み・つだよぉ・・・
 今夜は嬉しくて眠れないかもしれない・・・
 失礼な奴だと思ったけど良い奴かもしれない(*^^*)


なんだこれ?

たぶん・・俺の事を言ってるんだろう・・・

ブログの日付を見たが何をしたか思い出せない。

こういうのって女は良く憶えてるんだろうなぁ・・・

なんとかの記念日みたいに・・・

そこで俺はハッっとした。

一度あいつから

「今日は何の日だか憶えてる?」

って言われた事があったな・・・

そうそう思いだした・・あっ!その日だよ・・・

俺が、あいつに告白って言うか好きだって初めて言った日だって・・・

その時は

「そんな事、憶えてるかよ!」

って言ったけど、そっか・・あいつには嬉しかった出来事だったのか・・・

今更ながら、あいつの気持ちが解った。

なんか・・俺はあいつが生き返ったような気がした。

その日から、あいつのブログを最初から読むの事にした。




あいつがブログを始めたのは4年前からだった。

毎日書いてあったので、4年分のブログを全部読むには、

かなりの時間が必要だろう。

しかし・・終わりはいつかやってくる。

だんだんブログの日付があいつの死んだ日に

近づいてきた。

全部読み終えたら、あいつの所に絶対に行こうと

密かに決めていた。

あいつが死ぬ一週間前の日付になった。

その日もいつもの様にあいつのブログを読んでいた。

ブログの中のあいつは友人と映画を見に行ったらしい。

その映画は余命一週間と宣言された主人公のストーリだったようだ。

その話題に対して誰かがコメントを付けた。

 もしあなたの命が後一週間だと言われたら、あなたならどうしますか?


俺は偶然だろうけどタイミングの良い書き込みにびっくりしていた。

これに対して、あいつは何て書いたのだろうか??

俺はあいつの返事を探した。


 もし、余命が一週間しかないって言われたら私はどうするかしら?
 自棄になるかしら・・・
 とりあえず彼の所に行くと思う。
 一週間後には死んじゃう女が来たら迷惑かしら??
 でも・・やっぱり最後までずっと一緒に居たいだろうなぁ・・・
 最後のわがままなんだから、それぐらいは彼だって許してくれるでしょ(*^^*)
 私が死んだ後、彼はどうするかしら?
 泣いてくれるかしら?
 もしかして、後を追って自殺してくれるのかしら?
 もしそうだとしたら半分は嬉しいけど後の半分は・・・
 いつまでも彼が悲しんで幸せになれなくなったら、私は悲しいです。
 たぶん・・成仏出来ないと思う。
 ちょっと癪だけど新しい彼女を作って、その彼女を連れて私のお墓参りをして欲しい。
 墓石の前で彼女に
 「この墓はお前の次に愛した女の墓だ!お前も詣ってやってくれ・・・」
 (次って言う所が奥ゆかしいでしょ^^)
 ってやってくれたら成仏できると思う。
 なんて・・実際そうなったらどうかわかんないけどね・・・
 でも・・彼には生きて欲しい!幸せになって欲しい!
 それは間違いないと思う。


俺はディスプレーがぼやけて見えなくなっていた。

あいつが死んでから無くなってしまったと思ってた涙が溢れた。

情けないが大声で泣いてしまった。



あいつの形見のノートパソコンに電源を入れた。

そして、あいつにメールを送った。


 おーい!元気かぁ??(死んだ奴に元気かって言うのも変だが・・・)
 天国ってどんな所だ?
 それとも地獄に行ってるのか?
 お前が死んで、すぐそこに行こうかと思ったけど止めたよ!!
 もう少し、生きてお前が出来なかった事をいっぱいやって
 そっちに行った時にお前に自慢してやろうと思ってさ!
 なんて・・まだ・・カラ元気だけど・・
 そのうち本当に笑えるようになれると思う
 これから毎日お前にメールするから
 それまで少し付き合ってくれよ!
 まだ無理だけど・・お前に新しい彼女を紹介できるようになる日まで・・


それは二度と読まれる事の無いメール・・・

初めてあいつに送ったラブレター・・・




Fin


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